2020.11.05
|STL米部会|有機稲作の第一人者 稲葉光國さん・舘野廣幸さんに学ぶ
SHARE THE LOVE for JAPAN(以下STL)では、地域やテーマごとに参加農家が集まり学び合う勉強会が開催されています。
今夏、STLの稲作を行うメンバーが、有機稲作の分野の第一人者でおられる、栃木県の稲葉光國さん、舘野廣幸さんの元へお伺いさせていただき勉強会が開催されました。ほとんど雑草も生えず見事に実った田んぼを実際に見ながらお話をお伺いする機会を得て、「今回参加できなかったら数年は技術が遅れていたかも」という声も出るほど学びの多い勉強会になりました。そして栽培技術のみならず、第一人者でありながらも年々技術を進化させながら稲作をされている姿勢や、惜しみなくお話をしてくださる穏やかなお2人のお人柄に感銘を受けながら、来年の稲作が楽しみになる活力をいただける機会となりました。
詳しい内容は参加者のレポートをご覧ください。
(舘野さんの田んぼ)
|開催概要|
日程:2020年8月26日(水)27日(木)
場所:栃木県 上三川町 & 野木町
8月26日(水)
講師:NPO法人民間稲作研究所 稲葉光國さん(写真中央)
8月27日(木)
講師:館野かえる農場 舘野廣幸さん(写真中央)
|参加者のレポート|
● 仲澤康治さん|埼玉県小川町
1日目|8月26日
今回栃木県の稲葉光國さんと舘野廣幸さんという有機稲作の第一人者の2人の農場に視察に行かせて頂きました。
稲葉さんは、小川町にも有機稲作の勉強会ということで何度か来て頂いており、小川町の多くの有機農家が稲葉さんの提唱するポット苗での成苗田植え、早期湛水、深水管理、2〜3回代かき、田植え後の米ぬか散布、などの手法を参考にしています。「除草剤を使わないイネつくり」、「あなたにも出来る有機無農薬のイネつくり」の著書2冊は有機稲作の基本的知識がぎっしり詰め込まれていますので、絶対おすすめです。しかし、著書や勉強会での知識だけではなく実際に農場で田んぼを見させてもらいたいというのはずっと思っていたところで、この度STLで視察に連れて行かせてもらえることになり、本当に感謝です。
稲葉さんは非常に物腰柔らかな方で、最初は講義という形でDVDを見て、その後の質疑応答で細かな質問にも丁寧に答えてもらって本当に助かりました。成苗での田植え技術は、「農業自得」という江戸時代の農書から来ているという話が印象に残りました。温故知新というのか、色んな便利なものがなかった昔の人の方がより自然のことを観察して色々な知恵を使っていたのかもしれません。足尾銅山の話や千葉の学校給食で有機米を使用する話も出て、有機稲作を通して環境問題や教育も良くしていきたいという稲葉さんの熱い思いを感じました。
実際に田んぼを見させていただくと、ほぼ全ての田んぼで雑草がきれいに抑えられていて、驚きでした。著書の通りにやっても、私の田んぼ含め小川町の田んぼでは、上手くいくときもあるし上手くいかない時もあり、なかなか安定した技術として確立するところまでいっていないのが現状で、多くの農家が試行錯誤しているところです。栃木の黒ボク土と小川町の沖積土という違いが、雑草を抑えるとろとろ層の出来具合に影響する部分が大きいようですが、稲葉さんの手法も年々進化しているようでした。著書では、大豆の使用には少し触れる程度でしたが、今回話をしてもらったところ、収穫後に米ぬかおからのボカシとして、入水前にくず大豆とシリカを混合した肥料(民稲研1号)として、そして田植え後に米ぬかとくず大豆のペレットとして、と3段階で大豆の力を利用しているのを聞いて、大豆利用がコナギを抑える技術として加えられている点がポイントと感じました。販売面でも生協と取引し、仲間の米も集荷してまとめて取引しているということで参考になる部分でした。
(全く雑草のない稲葉さんの田んぼ)
(くず大豆とシリカのペレット)
(みんなで田んぼへ)
2日目|8月27日
2日目は、舘野廣幸さんの舘野かえる農場にお邪魔させていただきました。舘野さんは日本有機農業研究会に所属されていて、栃木県の野木町で長年有機稲作をされている方がいるということを噂に聞いていました。私が農業をする埼玉からもそこまで遠くない場所なので、常々機会があれば見学させて頂きたいと思っていたベテラン有機農家の方です。
舘野さんには、午前中みっちりと田んぼを見ながらお話と質疑応答をさせて頂きました。舘野さんの有機稲作は、冬から春にかけて生えてくる雑草をよく生やして代かき前にすきこむのみで、それ以外の投入資材は無しという自然栽培や自然農法と呼ばれる方法にとても近いものでした。雑草緑肥にはスズメノテッポウをメインに自然に生えてくるレンゲも混じるとの事です。どうやらこの雑草のすきこみによる作用で、コナギをはじめとする雑草が抑えられるようです。すきこんで、入水してからしばらくは浅水管理にしてわざと沢山雑草を生やしてまたすきこむというのも、1つのポイントと感じました。そして田植えの時には水をなるべく落とさず、5~10cmの水位を保ってそのまま田植えするという水中田植えという手法は目からうろこでした。田植えの時は水が無い方がやりやすいので、どうしても多く抜いてしまうのですが、そうするとそこまでに増えた生き物までリセットされて、どうしても、水の濁りがいったん無くなってしまうという問題がありました。ちょっと田植えはしづらいし遅くなりますが、水を張ったままでも田植え機の設定を調整して、目印の棒を立てれば、なんとか田植えは出来るということで、それを私の田んぼでもやれば、水の濁りがそのまま維持できて、コナギを抑えるのに格段の効果がありそうだなと感じました。
また育苗では、ポット苗の成苗という基本はもちろん、それに床土に雑木林で落ち葉を積み上げて作った腐葉土を利用しているということで、それも一つのポイントと感じました。苗半作という言葉があるとおり、育苗にはひと手間かけてされているのだなと思いました。
舘野さんはとても笑顔の素敵な方で、日に焼けた肌に、麦わら帽子がとても似合っていて、舘野かえる農場の通り、田んぼの生き物とともに、自然とともに生きていくという姿勢で、その生き方がお話からよく伝わってきました。
また舘野さんは、奥様のとみこさんとともに農業教育にも力を入れているようで、田んぼでのお話の後には、とみこさん作成の「かえるのがっこう」という紙芝居も実演して頂きました。さらに舘野さんは農業の本を集めた図書室まで作っていて、子どもたちの教育も大事にしていることがとても伝わりました。技術だけではなくそこまで含めての舘野かえる農場の有機稲作なのだと感じました。
(同じくほとんど雑草のない舘野さんの田んぼ)
(麦わら帽子の似合う舘野さん)
(とみこさんの紙芝居の実演)
● 大島和行さん|栃木県塩谷町
今回は、私の圃場のある栃木県で勉強会があるということで、普段から指導や勉強させて頂いている、稲葉さんと舘野さんをお伺いしました。何度伺っても、違うお話が聞くことができ勉強になり、今回も新しい知識を身に付けて帰ってくることができました。改めてお二人の経験の多さ、知識の豊富さを知り、凄いと思いました。
当日話があった中のひとつ、農薬の事ですが、ネオニコチノイド系農薬が良くないと言われていることは知っていましたが、ネオニコチノイド系農薬がお米のどこに溜まるのかまでは知りませんでした。お米全体に浸透するとのことでした。また、減農薬のお米にする為にネオニコチノイド系農薬を使う場合が多いらしいです。私は、全く農薬を使っていないので、気に留めず、減農薬の事などを詳しく勉強していませんでしたが、大変勉強になりました。自分は無農薬でも、農薬で汚染されている物がある限り、農薬の事も詳しく勉強していかなければいけないと思いました。
稲葉さんと舘野さんのお話しを聞いた後は、いつも心がとても元気になりやる気が出てきます。知識や経験や技術だけではなく、優しく教えて頂けるお二人の人柄などが本当に凄いなと思いました。安心で信頼できるお米を作っているだけではなく、人としても安心して信頼できる、お二人のような農家になりたいと思いました。是非みなさんも、日本を代表する有機稲作の稲葉さんと舘野さんに実際に会ってお話しをして欲しいです。
(いろんな質問に答えてくださるお2人。共に写真の一番左がご本人)
(稲葉さんの田んぼ)
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