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2019.06.15

|STL四国組|有機農業勉強会in上勝「作物を健全に育てる土づくり・育土技術と病虫害対策」

SHARE THE LOVE for JAPAN(以下STL)では、地域やテーマごとに参加農家さんが集まり、農業技術などについて学び合う機会が生まれてきています。今年1月25日(金)・26日(土)には、四国で農業を営むSTLメンバーによって勉強会が開催されました。

詳しくは、参加された皆さんのレポートをご覧ください。

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|開催概要|

日 程:平成31年1月25日(金)・26日(土)
内 容:25日(金)15:00~18:00 
    座学「作物を健全に育てるつちづくり・育土技術」
    26日(土)9:00~11:00 
    座学「病虫害対策」・質疑応答(雪のため圃場視察は中止)
講 師:Happy Village Farm 石綿 薫さん(長野県松本市)
場 所:徳島県上勝町(阿部正臣さん圃場)
参加者:21名(STLメンバー 北川美帆さん大島雄さん、阿部正臣さん、元自然塾塾生、上勝地元農家、地区元総代、町職員、町外農家、学生など)

「このたびこの勉強会が開催できましたこと、本当に嬉しく思います。3年前、有機の学校 土佐自然塾がなくなった後、多くの方から『今後は自分たちで勉強会をしてみてはどうか』というご提案がありました。開催したいという思いはあったのですが、当時は自分のことで精一杯で、行動に移せないでいたところ、師匠 山下一穂が急逝されました。

それから一念発起。一穂さんからのバトンをうけとってから一年経ちましたが、ようやく開催することができました。ご協力いただきました石綿先生、ご支援くださいましたSTLのみなさまに心より感謝申しあげます。おかげをもちまして大変充実した勉強会となりました。本当にありがとうございました。」(阿部正臣さんより)

|参加者のレポート|

阿部正臣さん|徳島県上勝町

今回の勉強会の内容:
〇作物の健康と病虫害の関係
・作物の生理生態・生育環境のミスマッチ(=不健康な状態)と、病虫害の発生・増殖のタイミングが合うと病虫害になる。健全な作物栽培のためには、作物が主役になれる土壌環境と、それを活かす栽培管理が合わさる必要がある。
・健全な生理代謝の確保は基本。根張りを促し、ミネラルを吸収できる土壌環境づくりが重要。

〇栽培を組み立てるための3つの視点
・栽培技術は、作物、土壌、栽培管理の3つの視点で捉える。栽培管理とは作物、土壌の長所を活かして、欠点を補完すること。また、作物の性質と土の性質をつなぎ、その結果が次の出発点になるように、ひとつなぎの流れの中に個々の栽培技術・技芸を位置づけること。それが=農法。農法は作物×畑だけある。作業一つ一つの「今ここ」をもつこと。

〇土づくりと育土
・土づくりとは、作物の収穫をつくりだす土壌の能力、すなわち地力(化学的性質、物理的性質、生物的性質が総合されたもの)を高めること。生産力を向上させるための土壌管理、改良(特に化学性、物理性の改良や維持)をすること
・栽培を通して土壌環境は変化していく。その田畑に応じた土壌生態系が生じ、栽培由来の栄養腐植が次作へひきつがれる。すなわち栽培を通して土が育つ。それが育土。
・一年の流れを同じにすると土がよく育つ(同じ時期に施肥、耕耘する等)。小動物、微生物のライフサイクルを意識した土壌管理が重要。

〇基本的な土壌環境を考えるための基礎知識
・土壌とは、母材×気候×生物×地形×時間。この組み合わせにより様々な土壌が生じる。
・土壌型の検索「土壌図Ⅱ(無料アプリ)」によると、上勝阿部圃場周辺は褐色森林土。有機物やや多く、柔らかな表層。補肥力は中庸などの特性がある。
・土壌型や立地など、人間が変えられないものにまず合わせる(畝の高さや向き、作付け方法は自ずと決まる)。その上で、改善・改良をできるものに取り組むと育土は早く進む。
・土壌物理性、土壌水分、土壌化学性の測定値をどうとらえるかが重要。数値の意味するところを考察、判断するのが土壌診断である。
・土壌の化学性は土壌微生物や作物の根の発達に影響を及ぼす。特に石灰・苦土などの土壌改良資材は、緩衝能の測定をもとにした資材投入を。化学性は一度乱すとなかなか元に戻らないのでむやみな多投は要注意。
・有機物由来の腐植が増えると無機態窒素は循環するようになる。硝酸化成して吸われて流れて終わりではなく、何回転もし、蓄積や補充されながら必要とされるところへ届くようになる。円滑な循環(“ぐるぐる”)のある土壌を目指すことが本来の土づくりであり、育土である。

〇有機的病虫害防除について
・防除とは、素因(作物体質や栽培条件等)を正し、誘因(気象条件、土壌環境、管理ミス等)を制し、主因(病虫害密度、発生消長)を挫くこと。有機的病虫害対策の基本としては、素因・誘因をつくらないこと。
・健全な作物生理を促す栽培管理(作物管理・耕種管理)がポイント。その基礎となるのは作物の根張り。そのための土づくり、育土が重要。
・健全な作物圏(根圏、葉面、有機物圏)をつくることが重要。例えば、健全な植物の葉面に定着する微生物は、植物自身が自然界から選んでいる。それが光合成不足や養分欠乏、ストレスなどで植物が弱ると、病原菌が感染する。対策としては、近隣の薬効作用のある植物(ビワや熊笹等)や、作物の葉や果実を発酵させた発酵液を葉面散布することが有効である。上勝の場合、上勝晩茶(発酵させてあるので)が有効。


勉強会の感想:
・自分の畑の状態をよく知ることが重要。
・健全な作物を育てるためには、作物の「根張り」がポイント。そのためのつちづくり、育土「ぐるぐる」が重要。
・上勝の一年の流れを意識した栽培体系や、上勝晩茶EM活性液の利用など、地域の特性を活かした栽培管理を実践・研究していきたい。

反省会意見:
・一般参加受入は大変だが、有機への理解を深めてもらえるし、色々情報交換ができる。
・次回は1日目一般参加受入、2日目自分たちのスキルアップという形はどうか。
・今回は懇親会費を参加者からいただいたが、勉強会もいただいてはどうか。他

次回:
高知県久礼・北川圃場を予定

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北川美帆さん|高知県中土佐町

四国勉強会を終えて:
今年2月に、長野県の石綿薫先生をお招きした勉強会に参加させて頂きました。自身で就農してからは、なかなか勉強会に参加する機会を持てなかったため、こうして四国に先生をお招きできたことは大変有り難いことでした。

今回は大きく分けて「育土」と「病害虫防除」の二つのテーマで行われました。
「育土」については、農業学校時代に石綿先生の授業を数度受ける機会がありましたが、最初の頃に比べ、畑の経験を積むごとに内容がイメージを伴って少しずつ理解できるようになってきたと感じています。

数多く学んだ中でも今回特に勉強になったことは、
「生きた土壌構造では、周囲土壌よりも生物活動が盛んな状態が持続し、次世代の有機物圏となる。この連鎖が続き蓄積していくことが育土である」という基本を踏まえ、この連鎖を持続するためには、適度に水分を保持しなくてはならない、ということです。
今までは、作物に水分を与えるという認識しか持てていなかったため、圃場が乾燥しきっていても放置してしまっていました。そのような状態では、せっかくできた連鎖が途切れてしまうとのことです。今後は、圃場が過乾燥となってしまわない管理の方法(マルチ利用や灌水など)で、「育土」をしていきたいと思います。

有機農業にとって「育土」は最も大切なことと認識していますので、繰り返し学んでいきたいと思うと同時に、石綿先生の授業を地域限定ではなく、STLのメンバーみなさんにも受ける機会が持てればいいなと思います。例えば、交流会やイベント出店の翌日など。またご提案させて頂きたく思います。

今回、四国では初めての勉強会となりました。
この勉強会の開催にあたりご支援くださったSTL関係者の方々を始め、石綿先生、そして勉強会を立ち上げ実行してくださった阿部正臣さんと大島雄さんに心から感謝申し上げます。

次回は10月に高知県での開催を予定しています。
今回の勉強会で良かった点や課題などを踏まえ、次回に生かしてより有意義なものとなるよう準備していきたいと思います。どうもありがとうございました。

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大島雄さん|愛媛県宇和島市

今回、講師としてご指導いただいた石綿薫先生とは、「土佐自然塾」での研修時代以来でした。当時の私は基礎知識もあやふやなレベルで、先生の話を半分も理解出来ていませんでしたが、今回約5年ぶりにお話を聞く事が出来、すっと腑に落ちる内容が多かったので、この就農後5年間で経験した多くの失敗や学びは糧となっているのかなと感じました。

今回の講義の中で印象に残った部分が、「農法は作物×畑の数だけある。作物の性質と土壌の性質をよく理解し、長所を生かし、短所を補完してひとつなぎの技芸の流れとする事」という部分と、「生きた土壌構造(栄養腐植)の連鎖が続き、蓄積していくことが育土」という部分です。

日頃の作業で土壌分析に基づいた施肥を行ったり、緑肥や堆肥の投入を作と作の間に取り入れたりしていますが、ついルーティン化してしまい、「それさえしておけば大丈夫」と安易な発想になりがちです。畑ごとの特性や作物の特性をあまり考慮せずに植え付けして失敗してしまうこともあり、今後は土壌の性質や作物の品種ごと、作型ごとの特性について把握した上で、きめ細かい管理が出来るよう取り組んでいこうと思いました。

また、どうしても数値としてわかりやすい「化学性」や、感覚でとらえやすい「物理性」の方ばかりに気が取られ、数値や感覚でとらえにくい「生物性」の部分をおざなりにしていたことを気付かされました。栽培終了後、残渣をすき込んだ時点から土壌微生物の活動は始まり、一旦無機化された有機物は、再度微生物によって有機化されるサイクルが起こるそうです。そのサイクルが続きながら蓄積することで、それを餌にする微生物が増え、「生物性」が豊かになることで、栄養腐蝕や養分の豊かな土壌になっていくそうです。なるべく定植や残渣の漉き込み時期を揃えながら、今存在している微生物が活動しやすい土壌作りをイメージして取り組んでいきたいと思いました。

2日間気になっていることを色々と質問させていただきましたが、今後も是非継続して石綿先生のご指導をいただきたいです。最後になりますが、主に企画してくれた阿部さん、北川さん、支援いただいたSTL事務局のスタッフの皆様にこの場をお借りしてお礼申し上げます。ありがとうございました。

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