2018.12.28
志の種をまく|みさき農園 中武海咲
家族3代、葛藤しながら未来へつないでいく
有機栽培にチャレンジして2度目の夏が過ぎました。去年は、緑肥をまいて土作りをしたら、思った以上にちゃんと作物が育ったんです。ところが今年の夏は日差しが強くてパプリカが育たなかったり、自慢のトウモロコシが獣害にあってしまったり、なかなかうまくいきません。自分の農業の技術は、まだまだと思うことばかりです。
それでもお客さんが「おいしい!」「この野菜なに?」と声をかけてくれるのは、すごく嬉しくて。忘れられないのは、野菜セットの購入者から「野菜の声が聞こえました」とメッセージをもらったこと。「キャベツが『苦しい』って言ってるよ」とか「スティックセニョールが『海咲に愛されて嬉しい』って」などと書かれていました。冗談だと思ったのですが、思い当たることがあまりに多くて驚いたんです。
最近、その人が初めて畑に来て「ここの野菜はあなたの愛情でできている」と言ってもらえたとき、「技術はまだでも、愛情だけはかけ続けよう」と心に決めました。
わが家は代々続く農家。私は長年家族が続けてきた農業を見ながら、どうして農薬を撒くのか知りたくなりました。そして、時間や手間がかかっても農薬や化学肥料を使わない、土の微生物を生かした有機農業がしたいと思ったんです。関西の学校で1年学んで宮崎に戻り、農業をスタート。家族は最初大反対でしたが、「次の世代が自由にやりなさい。今度は私らが海咲について行く」と言って5反の畑を有機農業にあててくれました。
実は去年、ばあちゃんが私に内緒で肥料をまき、大ゲンカになったことがありました。でも、ばあちゃんにしてみれば何十年も正しいと思ってやって来たこと。当たり前なんですよね。私がちゃんと知識を持ち、技術も高くなれば、家族も認めてくれるだろうと今は思っています。
ただ、ケンカしてもやっぱり家族。私はじいちゃんばあちゃんが大好きで、農作業でも助けてもらうことばかりです。家族がつないできた畑がこの先100年続くように、よい土を作り続けたい。多様な微生物がいる土は、元気な野菜が育ちます。元気な野菜は元気な人を育てる。将来は私も子どもを生んで、ここで育てていきたいんです。
採れたて野菜で人を幸せに、母と娘の農家レストラン
昨年10月には、農家レストラン「sachi cafe」もオープンしました。農業をずっとやってきた母の夢が、農家レストランを開くことだったんです。私は接客が大好きなので数年前から計画を立て、地域のみんなに助けてもらって店ができました。
月火水が農業で、木金土日がレストラン。いつでも採れたての野菜を食べてもらえるように、営業日も朝は畑で収穫しています。店の前にも畑があり、野菜が足りなくなればすぐ採りに行けるのもいいところ。毎日母は食材の生かし方を研究していて、ゴーヤのわたのフリットや、コリンキーをパスタ風にするなど、農家ならではの料理を作ってくれます。農業と店の両立はすごく忙しいけれど、採れたての野菜を味わってもらい、お客さんに感想を聞けるのはとても幸せです。
3カ月に一度は、子ども向けに畑と料理の体験イベントも開いています。自分が近所の大人にかわいがってもらったように、地域の文化を伝えられたら……と。
私、吉田松陰が好きなんです。彼が死ぬときに遺した「自分はまだ事を成し遂げていない。だが志の種が次の人に受け継がれていくのなら、私の人生は実ったと一緒だ」という言葉にとても影響を受けました。志の種をまき、人の人生を変えていく。そんな農業ができたらいいなと思っています。
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[みさき農園Information]
中武海咲さんが宮崎市田野町に家族と開いた農園。中武さんは高校を卒業して接客業についた後、農家の5代目に。1年間京都に滞在し八百屋で働きながら有機農業を学び、宮崎に戻って有機農業をスタート。中武さんを中心に、祖父母、母の4人で畑を切り盛りする。
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[sachi cafe(サチカフェ)]
みさき農園で採れた野菜を使って母の幸代さんが料理を作り、中武さんが接客を担当する。毎週メニューが変わる10品の料理がのったプレートランチ、甘酒の入った3色のスムージーが人気。
〒889-1703
宮崎市田野町あけぼの4-54
電話:070-4495-4662
営業時間:ランチ11:00~15:00(L.O. 14:30)、カフェ14:00~17:00(L.O.16:30)
営業日:木曜日~日曜日 (定休日:月・火・水曜日)
アクセス:田野駅から徒歩20分、田野インターから車で5分
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中武海咲さんとSHARE THE LOVE for JAPAN
2017年に「挑戦者(新規就農者または就農年数が浅い農家)」として参加。2017年は日々の奮闘をブログに綴り、夏はオーガニックライフスタイルEXPOで野菜を販売しました。人を惹きつける明るい人柄と、積極的に学ぶ姿勢で参加農家との交流を深めています。
詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。
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写真:柳原 美咲 文:菅 聖子
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