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2016.11.28

熊本 耕す人びと3.「三代目 さつま(の)いも職人」西田喜一

「一子相伝のさつまいも有機栽培 家族で作った畑と味を守り抜く」

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 親子三代、さつまいも作りを続けてきた。
 
祖父は、父親にこう語り続けた。
 「人を作れ。土を作れ。そして、国を作れ」
 おごることなく、実直に土と向かい合う祖父を見て、父はその「三作れ精神」を糧に、さつまいもの栽培に人生を捧げてきた。

 「農薬も化学肥料とかも使わない。堆肥や油かすとか米ぬかを入れて、化学では出せないような甘みと味わいを目指してやってきた。だから、宣伝なんかはせん。『食べてみてください』それが宣伝たい。論より証拠。地元の人たちも、食べると甘みが全然違うと言ってくれる。これからも美味しいさつまいもを作らんといかんな」
 そう胸を張る父の横で息子はちょっと照れた表情を見せる。

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 西田喜一さん。今回の地震で最も被害が大きかった地区のひとつ、益城町で今もさつまいもを育てている。
 西田さんが育てるさつまいもの中でも特に人気が高いのが、芋焼酎の原料として広く知られる黄金千貫だ。

 「昔は、黄金を千貫積むくらいの値打ちがあると言われて食用でも作られていたそうなのですが、紅あずまや紅さつまと比べて甘みが低いので、食用に栽培する農家が減ってしまいました。ウチでは、親父の代から、黄金千貫を無農薬で育てています。このエリアで有機農業に一番最初に取り組んだのも親父でした」

 食べていく内にじんわりと広がる柔らかな甘みとほっこりとした食べ応え。かつての黄金千貫の味を覚えている高齢者から子どもまで、口にした誰もが微笑むような優しく素朴な味わいに惹かれて、都内の料理人やスイーツのパティシエなどからの注文も絶えない。

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 そんな黄金千貫を始め、毎年作り続けてきたさつまいもたちの栽培を一度は諦めかけた。地震の影響で水の確保が難しく、苗の生育が思うようにいかなかったのだ。

 「それでも取引先の方やお客さんたちが苗の植え付けの手伝いに来てくれたんです。ありがたかった。ウチは、代々家族で暮らしてきた家も潰れてしまって、今は仮設住宅に暮らしています。震災に遭われた方達はみんなそうだと思うんですが、私も毎日、涙を流していました。でも、たくさんの人に励ましてもらえたことで、改めて一人じゃないんだと気付きました。農業をしていたことで、人との繋がりを改めて実感することが出来たんです」
 両親と祖母も今でも毎日畑で作業をする。家族みんなで作りあげてきたさつまいもだ。

 「まだまだ息子にさつまいも作りの全てを教えたとは思っていない」と、父・幸憲さんは言うが、「他の野菜を作ってみたいなとも思うんですが、そうすると手が回らなくなってしまうので、これからもずっとさつまいも一本でやっていきます。まずは、地震で手伝いに来てくださった方々に、美味しいさつまいもを育てて届けたいんです。『こんないいさつまいもが出来ましたよ』って」
 三代目さつまのいも職人が育てた黄金千貫。さあ、『食べてみてください!』

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(写真キャプション):収穫したての黄金千貫を手に畑に立つ、父・幸憲さんと西田さん。父を見て育ったので、物心ついた時から有機農業が当たり前。作物が根深く育つ火山灰土の土壌を活かしたさつまいも作りの秘訣は土作りと草取りと語る。


[ プロフィール ]西田喜一(にしだきいち)
1978年熊本県生まれ。代々続く農家の長男として生まれ、高校卒業後、父の後を継いで無農薬栽培でのさつまいも生産に取り組み始める。長年家族とともに暮らした益城町の自宅が今回の地震で崩壊したため、現在は妻と娘とともに仮設住宅で暮らしながら畑へ通っている。

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