2016.11.28
熊本 耕す人びと5.中村司郎「新しい世代のために」
「後継者不足と耕作放棄地も救う 新規就農者との未来の農村作り」
前のページで紹介した村山さんを初めとする第一人者たちの努力の賜物として、山都町は有機農業の郷として広く知られるようになった。そして、今では、全国各地から有機農業に取り組もうとする若者たちがやってくる。
「百姓になりたいという人がいっぱいくる。そこで、研修生として受け入れて、野菜の作り方を教える。
でもね、作り方だけ教えて、後は知らんよじゃ将来は続かない。たとえ、有機農産物であっても、それを販売してお金にしないと生活は出来ない。技術を教えた、その先を誰かが、どこかがやらなくちゃいけない」
こう語る中村司郎さんは、山都町で有機農業に取り組んでおよそ35年。村山さんを熊本有機農業の第一世代とすれば、その次の世代にあたる人物だ。
「私が有機農業に取り組んだのは単純です。子供が出来たから。当時は、熊本市内で足場を組む仕事をしていました。ところがね、ある日、近所の農家さんのところに行ったら、キュウリを自分たちで食べる分と出荷分で分けて栽培していたの。まっすぐできれいなキュウリが欲しいっていう都会の消費者のために農薬を使っていた。それを見て、自分の子供には安全な野菜を食べさせてあげたいと思った」
貯金を切り崩しながら、懸命に畑の土作りをした。かつては田んぼだった畑や火山灰土のサラサラした砂地のような畑。それぞれ、土の特徴も違い、適した作物が分かるようになるまで、何年も失敗を繰り返した。
ようやく有機農業で生計が立てられるようになるまで5年もかかった。
当時の有機農業にかける情熱と現実の狭間で苦しんだ体験があったからこそ、新しい世代に対して自分たちの世代がすべきことがあると思った。
「先輩を含めて自分たちでせっかく山都町=有機農業として知られるようになったのに、このままでは途絶えてしまう。そこで、新規就農した人たちのために、売り先(=販路)を作ってあげようということで、去年、地元の有志の農家たちで団体を結成した」
都内のスーパーや飲食店、生協など、大小合わせて50か所もの販路を確保し、新規就農者の作物を優先的に出荷している。
さらに、新規就農者の場合、栽培に苦労し、作物を出し切れないことがあるので、そんな時は中村さんたち先輩農家が補うようにしている。そうして、取引先との信頼関係をしっかりと構築するところまで目を配る。
「ウチはたまたま息子が継いでくれたからいいけど、山都町でも後継者不足は深刻な問題です。
いかに後継者を育てるかという視点から考えても、新規就農者の皆さんの力を借りられるという利点もある。
現時点で、団体にいる新規就農者は10名。みんな頑張っていますよ。おかげで耕作放棄地だった畑や田んぼにも、また、人の手が入るようになってきた。それでも、まだまだ農地はある。
だからもし、これから有機農業をやりたいという人がいたら、山都町においで!」
(写真キャプション):高校を卒業と同時に後を継いだ長男と妻とともに「死ぬまで畑に出る」という中村さん。「自然を利用する農業」を掲げ、標高差を生かして、夏場は高地、冬は低地で、ナスやオクラなど年間に50品目を超える野菜を栽培。
[ プロフィール ]中村司郎(なかむらしろう)
1957年熊本県生まれ。高校卒業後、熊本市内で10年間のサラリーマン生活を経て、第一子誕生時に農家になることを決意。以来、有機農業一筋。生産母体「愛農会」に所属する傍ら、積極的に販路を拡大。昨年、念願だった新規就農者支援団体を設立した。
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