SHARE THE LOVE

2022.11.21

|関西勉強会|宮崎・川越俊作さんに学ぶ「自然栽培」の気構え

SHARE THE LOVE for JAPAN(以下STL)では、地域やテーマごとに参加農家が集まり学び合う勉強会が開催されています。

宮崎県宮崎市で自然栽培の畑作を営む川越俊作さんの圃場にて、2020年の冬に、土作りに関する勉強会を開催しました。(詳しくはこちらからご覧いただけます。「土作りとは、土戻し。本来の土の姿に戻すということ」

その宮崎での勉強会に参加した関西メンバーの圃場を今度は川越さんに訪れていただく形で、今夏、勉強会を開催しました。土質や自然環境も異なる、奈良・京都・滋賀の3ヶ所の圃場で、これから自然栽培に挑戦する土の可能性を見ていただきながら、土作りのポイントや自然に対する向き合い方や気構えまで、本質について考えさせられる機会となりました。各地域で自然栽培に関心を寄せる方々もご参加いただき、STLの勉強会としてはこれまでで一番参加者が多い勉強会となりました。

今回の勉強会の詳しい内容は、こちらからご覧いただくことができます。
URL公開後貼り付け:「革新者 川越俊作に学ぶ 土作りとは、土戻し。実践圃場訪問編」

勉強会に参加した農家メンバーが語る感想は、以下のレポートをご覧ください。

|開催概要|
日 程:2022年8月1日(月)奈良 ・ 2日(火)京都 ・ 3日(水)滋賀
講 師:宮崎県宮崎市田野町 川越俊作さん(自然栽培 畑作)

|参加者のレポート|

東樋口正邦さん(奈良)
安井千恵さん(京都)
田中真由美さん(滋賀)
松﨑悠生さん(愛媛)
森本悠己さん(岐阜)
梅津裕一さん(千葉)

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|参加者のレポート|

東樋口正邦さん|奈良県平群町

 トラクターの耕耘速度一つ取っても、土の中や微生物に注意を向けているか、野菜の出来の良し悪しを畑、土、微生物とつなげて考察出来ているか、 肥料の観点がない自然栽培では、よりクリアに原因を追求出来る。もっともっと畑や田んぼの中に意識を向けて、もっと土や作物の置かれた状況にのめり込み、手に取るように作物や土の状態を把握したいと思ったし、把握しなさいと川越さんの背中に教えて頂いた気がする。

 そういった類のことは、自分で農業をしている者なら言われて理解出来ない事ではないし、誰だってそうすべきだと認識しているはずのことと思う。しかし、現実問題として、朝起きて、苗に水をやり、出荷を済ませ、日中の作業をこなし、夕方収穫、夜出荷調整の日々の中で、畑の土に意識を向けている時間がどんどん失われていく。自分の意識をどこに向けるかの問題だと、改めて実感させて頂いた。

 実際の畑を見ていただいた川越さんからのアドバイスは、自然栽培を実現するための初期の破壊と再生という課題、つまりエン麦を作り、完全に枯れた茎葉だけを深くまですき込む段階から、畑として作物が育ちやすい団粒構造を作るために、小麦や大麦を試してみると良い、というアドバイスへ変わった。また、トラクターでの耕耘は浅く、土中の環境の破壊が最小限になるよう配慮するべきとも。耕耘は、表層付近の好気的な環境と、深層の嫌気的な環境をごちゃ混ぜに破壊する行為になる。それは深層に存在する、肥料や未分解の有機物による腐敗層を解消するのには必要な行為だが、ある程度その処理は済んでおり、これからは土を育てていく段階ということだろう。

 帰りの移動中に、川越さんは関西の田んぼ用に造成された土地に存在する硬盤層の事を気にされていた。「俺んとことは全然違うけど、この環境でやれる事を探すしかない」と。それで友人にメールされて、「野菜が育つ環境に生える草の情報が得られた、双子葉植物だよ!」と言い残し帰っていかれた。翌日電話が掛かってきて、「双子葉の緑肥やってみないか?」と言って頂いた。根っこで硬盤層をほぐし、双子葉の緑肥なら土の性格を多少なりとも双子葉が好む環境に育てる。「それだ!それしかない!」と興奮と感謝を返した。その結果は今後追っていくが、川越さんは慌ただしく関西の畑を回っていく中で、確実にそれぞれの土の中に没頭し、どうするのがベストか模索していたのだと再認識させられた。どんな時も、土に真っ直ぐな姿勢。それを伝え、それを実行して頂いた、偉大な先生だ。「覚悟、姿勢、そう言ったものが一番大事。それが出来れば野菜はできるよ」といつもお酒の席でおっしゃられる。座右の銘にしよう。

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(双子葉の緑肥の成長後の今です。セスバニアやれって言われたけど、もう売り切れだったのでクロタラリアで代用)

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安井千恵さん|京都府京都市

 今回の勉強会では川越さんに大きく2点をお伺いしたく参加しました。

 2年前から緑肥(燕麦)で土づくりをはじめた畑を実際に見ていただき、もともとは田んぼとして使われていた所が「畑として」良い状態になっていく可能性はあるのか、また今後どのような土づくりや作付けをしていけば良いのかをお伺いしました。
 
 まず、「畑が良くなっていく可能性はあるのか」という質問に対しては、「より良くなっていく可能性がある畑」とのことでした。私自身も、ガチガチだった土が少しほぐれて柔らかくなったような感覚があったので、そのように言ってもらえてうれしかったですし、今後も継続して土づくりを行っていこうとやる気も出ました。

 また「今後どのような作付けをしていけば良いか」の質問では、燕麦を撒いてすき込んだ区画に、次は「麦の栽培が良い」とのことでした。理由は、バクテリアなどの多様性がさらに生まれるから。昔から「麦づくりは土づくり」と言われているそうです。最低5年は燕麦以外何も植えない、と以前に聞いたことがあったので覚悟はしていましたが、土の状態から次のステップとして小麦の栽培をすすめていただいたので、1年目の栽培は種取りをして年々栽培面積を増やせていきたいと考えています。今年の秋は、「せときらら」を播種予定です。

▼今回改めて感じたこと、学んだこと
◎とにかく畑には外から何も入れないこと。土自身の力で育てる。肥料は要らない。

▼技術的ヒント
◎なすの仕立てはとにかく上へ吊り上げる。
誘引が間に合っていない箇所をみて、川越さんがそれを手でぐっと束ねて少し持ち上げた状態で「こんな感じでくくると良い」と教えていただきました。
◎生分解性マルチも結局は土に残ってしまうから使わないほうが良いと聞いたので、今後生分解性マルチの使用はしないことにします。
◎耕耘するときは、10センチくらいの深さで。PTO1、速さ1でゆっくりとじわっとまわす。はやい速度で深く耕耘するのはNG!

▼最後に:
川越さんから「これからどんな風になっていきたいのか。農業をしていきたいのか」という質問がありました。「とにかく土づくりや生産量を上げなければ!」と考えていることが多かったので、「今後どうしていきたいか」をもう一度考えるきっかけになりました。
体力の衰えと共に、細く長く続けていける自分なりの「農ある暮らし」を模索する中で、やはり農業を通じて多くの人とつながっていきたいと感じています。そんなきっかけになるイベントとして、今年の秋には野菜で作った無添加のお菓子をマルシェで販売する事や季節の野菜を使った薬膳料理、キムチづくりなどのワークショップを考えています。

今後も学ぶことを続けて知識を深めていきたいです。
たくさんの気づきをありがとうございます!

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田中真由美さん|滋賀県 長浜市

 実際に土を見ていただいて、川越さんから見た意見を聞き、今後の栽培の参考にさせてもらいたいと思っていました。今回自分の畑に来ていただいて、もともとが畑土だったのか田んぼ土だったのか判断が付かなかった場所の判断をしてもらえたため、どの土地で自然栽培に取り組んでいくかを絞ることが出来ました。

 また、前回の勉強会からもう一歩進んだ話を聞かせていただいたおかげで、更に実践がしやすくなりました。具体的には、川越さんのアドバイスをもとに、今年から選定した圃場でエン麦を秋に蒔き、春に青刈りをしてセスバニアを後作に蒔き、といった形で土づくりを行う予定をしています。
 
 川越さんの畑がある宮崎と関西ではやはり土が違いますが、根本的な考え方は一緒で、手段が違ってくるのだと思いました。「自然栽培はマッチングの世界」という言葉を川越さんからよく聞きますが、自然栽培を行う上でとても大切な考え方だと思って受け取っています。その考えを基礎に、自分の土地に合った自然栽培を実践していきたいと思います。
 
 また、今回の勉強会の話が決まった際に川越さんが「自分もいろんな土地に行くと勉強になるから」とおっしゃっていて、これだけ実践され結果を出されているにもかかわらず、立ち止まらず常に学ぼうとされている姿勢こそ、川越さんが結果を出されている理由なんだろうなと感じました。

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松﨑悠生さん|愛媛県松山市

 2020年12月以来の開催となった自然栽培勉強会。前回の学びの中から得られたヒントを元に、自身の畑で実践・検証してきたことを踏まえ、次のステップへ移るための気付きを得る絶好の機会となりました。

 前回の勉強会で川越さんが発せられた言葉の中で強く心に残っていたことが、『土と作物のマッチング』ということです。地元の畑の土は、九州や関東のような作土域の深い黒ボク土は皆無で、ほぼほぼどこの畑を見ても粘土層の土壌です。川越さんの畑と同じような結果を再現するのは難しいと理解した上で、いかに自分の置かれた状況・環境で植物にとって最適な土を目指すことが重要であるかを考えてきました。

 今年でエンバクを鋤き込んで3年目の畑があるのですが、年々土の状態が変化していることを実感しています。一年目に蒔いたときには背丈が不揃いだったエンバクが年を重ねるごとに均一化の方向に進んできているということ。土の団粒構造がより細かく変化してきているという点です。(生えてくる雑草の種類も地表を覆う様な背丈の低い草に変わりつつあります)

 ただひとつ不安要素としては、どのようなタイミング、耕運のしかたでエンバクを土に鋤き込めばいいのか?ということを今一つ確信が持てないまま色々試していたのですが、闇雲に分解を促そうと耕運し続けると表土がだんだんと砂漠化して土が逆に痩せていっている場所が所々出てきてしまったということです。

 この点に関しては、今回の勉強会で、青いもの(青草)と枯れたもの(麦類の残渣)の配合バランスを考えて鋤き込んでいくという話と、ロータリーの耕運スピードと耕す深さがポイントになるという話が大変参考になりました。これに関しては自分でも何となくこんな感じにすればより良くなるのではないかと似たようなことを考えていたので、川越さんのお話はもの凄く腑に落ちました。(土の中にまだまだ腐植が少ないので自然界の分解の順番を意識して、土に有機物・適度な水分→青草も水分と捉える・空気を送りこんでいかなければならないというイメージ)

 川越さんは自身の自然栽培へのアプローチを年々更新して狙いをもって次々と挑戦されているので、自分も引き続き自身の圃場で自然を見る目を養い、色々と試行錯誤しながら土作りや野菜の栽培に取り組まなければと大いに刺激を受けました。

 まだまだ土を良い状態にしていく段階ではありますが、今後とも継続的に麦類の栽培と有機物の腐植還元に励んでいきたいと思います。

 今回勉強会でお会いし話をさせていただいた皆さんとの会話の中にもヒントや気づきが沢山ありました。また皆さんと意見交換できる機会を心待ちにしております。楽しく意義のある勉強会をありがとうございました。

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森本悠己さん|岐阜県飛騨市

 自然栽培農家として独立し6年。それなりに美味しく綺麗な野菜が収穫できお客様にも恵まれ、なんとか営農できている状況ですが、圃場によっては、ほとんど収穫が出来ない条件のところや、現状順調に収穫できている圃場でも、年々収穫量や生育状況が悪くなっている圃場もあり、果たしてこのまま自然栽培農家として継続して野菜を栽培し続けることが出来るか漠然とした不安を常に持っていました。

 先輩や仲間の圃場を見学したり、本やSTLの過去の研修レポート等も参考に、毎年自分の畑の状況を見て考察を立て実験・振り返りを繰り返していましたが、まだまだ自身の技術や考えに確証を持てずにいたので、今回は、土づくり中の圃場を見させて頂きながら前からお話を伺いたかった川越さんにお話を伺えるとのことで、良い機会だと思い参加させていただきました。

 現場でお話を伺う前は、僕の勝手なイメージでは、確固たる技術論をロジカルにお話しいただけるのかと思っていましたが、今回参加して、自然栽培の先駆者だからこそ、まだまだ新しいことを考え、常に挑戦し苦悩して変化しているのだなと、とても感じました。それと同時に、勉強会に参加して何か分かったつもりで、自身の不安が解消されるほど、この世界は甘くないというようにも感じ、自分自身が浅はかだったなとも痛感しました。本や動画では、色々な方法論や技術論の情報を手に入れることができますが、誰かが言った良い悪いの話を鵜呑みにするのではなく、自身の圃場の条件に合った方法を自分で模索しながら、自然と向き合いもっともっと敏感にキャッチし実験を繰り返して続けていかねばと背筋が伸びる思いになりました。

 また農繁期でなかなか畑を離れにくい時期でしたが、一番忙しく畑の状況が分かっている時期だからこそ出てくる疑問や現状との比較が出来たことも、とても有意義でした。川越さんの話はもちろん、STLの仲間の皆さんと情報共有でき良い刺激を受けました。

 麦を使った土づくりは実践中だったので、引き続き継続していきたいですし、麦の種類や漉き込み方など、一つ一つの選択をなんとなくではなく本質をよく考え選択すること。自分自身で見つけていきたいと思います。今回は良い機会をご提供してくださりありがとうございました。

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梅津裕一さん|千葉県千葉市

 今回の研修に参加させていただいた目的は、自然栽培に対する川越さんの考えをお聞きしながら、自分が今取り組んでいる栽培や土作りの方法、その考え方が正しいのかを判断するための1つの価値基準を得たかったからです。

 私自身、落花生の自然栽培と連作という千葉県の常識から逸脱した新しいスタイルを、理科の知識と独自の理論を信じて体系化している最中です。そこには先行研究や他社の助言などが全くないため、「本当にこれで大丈夫なのか?」と不安が募ります。その不安を払拭して自分の考えを強く信じていくために、川越さんが長い年月をかけて積み上げてきた膨大な経験値と価値観に触れるなど、積極的にコミュニケーションをとっていこうというモチベーションで挑みました。

 実際に研修では、他の参加者の畑を教材として、川越さんの土作りに対する考え方を学ばせていただきました。そして研修の最大のメリットは、学びの中で沸き上がってきた疑問をすぐに川越さんと問答できたことです。この問答を通して、自分の中にあった自然栽培や土作りに対する不安を少しずつ払拭することができました。具体的には、緑肥の選択やそれらを粉砕してから次の作付けまでの扱い方などです。そして、自然栽培の土作りに対する科学的な証拠に裏打された川越さんのいくつかの考え方について話し合えたことは、私にとって良い財産になったと感じています。

 この研修を通して学んだことをもとに、今冬からの土作りに早速活かしていきたいと考えています。すぐに取り組めることとしては、まだ土中の微生物相が未熟で腐食や栄養バランスの取れていない畑に対して、大麦などをはじめとする麦系の緑肥を投入していくことです。その際、緑肥の前後に土壌分析を行うことで、土中に様々な要素がどのように変化していくか変遷を確認していきたいと考えています。また自然栽培とオーガニックとの違いについて、川越さんと議論させていただいたときに得た知識をもとに、来季の落花生栽培では株間・条間・畝間を広げ、そのバランスの最適解を見つけていく実験を行う予定です。

 今回、川越さんと多くの事柄について話し合いまた指導を賜われたことで、自身で作り上げている落花生の自然栽培方法をより高められたと確信しています。いくつかの不安を払拭でき、あとは試行錯誤しながら最終的に数字と言葉でしっかり証明できるように毎年データをとってまとめていきたいと思います。自分の理論と実際に行なっていることを信じて、自分の責任で落花生の自然栽培という未知の分野をもっと開拓していきたいと強く思えた、そんな素晴らしい研修でした!

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