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先駆者の言葉 No1

index

  • 農業というシンプルな仕事に憧れて
  • 虫が教えてくれた自然界の法則
  • 失敗をいっぱい作ることが大事
  • 有機農業がクリエイティブ力を育てる

introduction

1967年、佐賀県生まれ。大学卒業後、ベネッセコーポレーション入社。保育園事業などの新規事業の開発に携わる。2010年小豆島に移住。 国内で初めてオリーブの有機JASに認定された栽培農家。

唯一無二の有機オリーブ栽培に成功

たまたま訪れた、妻の郷里・小豆島でのオリーブとの出会いから、 山田典章さんの有機農業が始まった。
誰からも不可能といわれたオリーブの有機栽培の実現を目指し、 42歳で会社員から農家へと転身。
そして、何度も試行錯誤を繰り返し、 ついに日本で初めてのオリーブの有機JAS認定という栄誉を手にした。

農業というシンプルな仕事に憧れて

chapter01

40歳の頃、山田さんは会社員としての自分の未来に息苦しさを感じていた。
「『出世』とか『お金』にモチベーションを見出せなかった。それよりも、夢中になって朝から晩までのめり込めるような仕事がしたかった」。そんな時、妻の郷里である小豆島を訪れた。島はオリーブ栽培が盛んな土地だ。ふと「ここでオリーブを育てて暮らしたいな」と思った。

「会社員の仕事って分業化してるじゃないですか。
でも、人間って効率が悪くても全部をやりたいと思いますよね。それって本能に近い感じがする。だから、オリーブを見た時に、『これに実がなって、それがお金になるんだったら、こんなにシンプルでおもしろい仕事はないな』って思ったんです」

周囲の反対を押し切り、2010年、小豆島へ移住。
42歳だった。農業の経験もゼロだ。だが、山田さんは自分の内なる本能の声に従った。「農業って、人間が食うために始めた、ある意味最も古い仕事だと思うんです。だから、種をまいたら芽が出るとか、植物を育てることは人間が感覚的にわかっている。例えば、『植物は光合成をするから日光が必要』っていうのは知識。でも、光合成の知識がなくても、わざわざ植物を暗い場所には植えないと思う。そういう感覚的なものが磨かれるんです、農業をしていると」

失敗をしなければ、技術も成長しない

失敗をしなければ、技術も成長しない

虫が教えてくれた自然界の法則

虫が教えてくれた自然界の法則

オリーブの有機栽培が不可能と言われていた最大の原因は害虫だった。
「ハマキムシっていう葉っぱを食べる虫がいるんです。最初の年は、100本植えたんですが、毎日毎日、木を見て回って、一日千匹くらい潰してました。想像すらしてなかったですよ、そんなこと。朝から晩までプチプチプチ…。潰しきらないと、次の日にまた葉っぱが食われるので必死でした」。ハマキムシを潰すだけの日々が一ヶ月近くも続いた。緑色にべたべたになった手を見て「このままでは、やっていけないんじゃないか」と不安になった。ところが、2年目になり、思いもよらない発見があった。「雑草を抑えるために引いた芝にいろんな虫が入ってくるようになって、ある時、クモやカマキリがハマキムシを食べてるのを見つけたんです。それで、『そうか、自分で全部潰すのではなく、虫たちの力を借りればいいんだ』って考えたんです」

当初はカマキリの卵を畑に持ってこようかと考えたが、羽化してもカマキリの餌になるものがなければ死んでしまう。
「長いスパンで大きく考えるようにして、虫が勝手にやって来るようなフカフカの芝を作ればいいと。そういうオリーブにとってのいい環境を作る方に自分のパワーを全部集中させました」。
ひどい被害にあっても、不安になっても農薬を使うことはなかった。農薬は、害虫を瞬間的に殺す。それだけなら便利に思える。だが、農薬は害虫だけでなく、その他の生き物や土地自体も殺してしまう。

「芝ができると、クモやカマキリ以外にも蟻や蜂まで来るようになって、ハマキムシを食べてくれるようになったんです。虫の個体数が多いということは、そこが豊かな状態になっているということ。畑はつながっているんですよ。『これでオリーブを増やせる』って思えたあの時が、農家の自分にとってターニングポイントでした」

有機農業は、木も自分もタフにしてくれる

失敗をいっぱい作ることが大事

虫が教えてくれた自然界の法則

失敗をいっぱい作ることが大事

毎年、オリーブを100本ずつ増やしてきた。今は、6カ所に増えた畑を飛び回りながら、毎日500本の木を見て回っている。そろそろ手一杯かなとも思うが、それでも今年も100本植える予定だ。
「毎年少しずつ増やすと、その都度、畑でいろんな実験が出来るんです。これが、500本とか600本の木を一気にお金を掛けてドンと植えていたら、取り返しがつかないことになってかもしれない。今から思うと、1人で地道にやったからこそ近道になった。それが良かったのかもしれません。僕がやっていることは、オリーブにとっていい環境を作ること。木がタフに、しっかりと育つための環境をどう作るかっていうことだけです」。

そのために、山田さんの畑にはさまざまな仕掛けがある。例えば、ハマキムシ撃退のポイントにもなった芝。山田さんの6カ所の畑に引いている芝は全部で8種類にも及ぶ。それぞれの畑の土の性質や、栽培するオリーブの品種によって芝を変えている。
「芝は、自生の野芝が環境に合っていると思うんですけど、管理の仕方や、虫がどれくらい入ってくるかなど、いろんな観点で西洋芝と比べて研究しています。オリーブの栽培で判断に迷ったら、両方やればいい。そうすれば、どちらも結果が分かるから。片方が失敗したとしても、その分、オリーブを育てる技術は身に付く。そうして、痛い目に遭いながら、身に沁みながら学んだことというのは、応用も利くんです。だから、失敗するためにいろんなパターンを試します。芝にしても2種類しか引かなかったら、その内の1回しか失敗来ない。でも、8種類だったら7回失敗出来るわけですよ」

失敗をしなければ、技術も成長しない

有機農業がクリエイティブ力を育てる

有機農業がクリエイティブ力を育てる

有機農業がクリエイティブ力を育てる

山田さんはオリーブ栽培の一番のポイントは根にあるという。1本の木に案内してくれた。 周囲の木よりも明らかに幹が細く、枝にも拡がりがない。
「この木だけ水をたっぷり上げてわざと過保護に育ててるんです。他の木は水をやらないから、自力で必死に根を張る。違いが言葉じゃなくて、ハッキリと目に見える」。
化学肥料を使えばこんなことをしなくても、小さな根の細い幹のオリーブからもたくさん実が収穫できる。

「化学肥料や農薬を使うと、あまり考えずに農業ができちゃう。でも、より深く考えた方が技術的にタフになる。木もタフになってくれるように、自分もタフになる。楽なことはしない方がいい。それが有機農業ってことなのかもしれない。有機農業は98%は肉体労働です。でも、こうやって試行錯誤を繰り返すからこそ、クリエイティブになれるし、人間味もあっておもしろい」

去年、山田さんは初めてオリーブオイルを販売した。移住後、初めて開墾した畑から収穫したルッカという品種のオイルは、驚くほどフルーティーな香りがするオイルに仕上がった。
「ここの畑では、木の根がとにかく乾くように、根を上げているんです。水もやりません。そうすると、成長は遅いんだけど、香りがすごく強く出るようになるんです。そうやって育てると、ルッカは青リンゴのような香りがする、珍しいオイルになるんです」

農業は英語でアグリカルチャーというが、その意味が山田さんと話していて腑に落ちた。アグリとは、土地や土壌を表し、カルチャーは文化を表す。山田さんは、オリーブ畑で山田さんにしか創造できないカルチャーを作っているのだ。 

photo/Nami Suzuki text/Takashi Ogura

写真家の眼

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