Vol.4
Vol.4
5年は野菜を育てない
野菜を育てたい気持ちを捨てる / 土のクリーニング
麦類(エンバク)を活用する
農を通じて何をやりたいのか / 撒き方と漉き込み方
作物と土の状態は根で判断する
植物が土を作る / 自然界の法則に則る
葉物は土を踏み固める
作物にあった植物ホルモンの活性化 / いつも問いかけを
参加者たちの声
勉強会レポート
1968年宮崎県で代々続く農家の家に生まれる。大学卒業後、製薬会社で6年間働き、29歳で両親の跡を継いで就農。環境保全型の農業を模索し、多様な農法を実践・研究し自然を見続けていく中で、農薬や肥料を使用せず種と苗以外は畑の外から持ち込まない自然栽培に辿り着く。15町規模の圃場で、土作りをしながら大根やらっきょうなどの野菜を栽培し加工品製造も行う。自然栽培を始めて20年以上が経過し、次世代の育成も担う。
有機農業、炭素循環農法、自然農など、「大地にやさしい農業」にはいくつものアプローチがある。その中で、近年、特に注目を集めているのが「自然栽培」だ。無農薬・無化学肥料にとどまらず、一切の肥料や堆肥を施肥することなく、土の力だけで作物を栽培するという哲学に惹かれ、自然栽培を志す農家も増えている。今回の勉強会も「自らの農に自然栽培のエッセンスを取り入れたい」と考えてやってきた参加者がほとんどだ。しかし、開口一番川越が放った言葉で、勉強会は静まり返った。
「この中で、もし、自然栽培を始めたいという人がいたら、まずは、野菜を育てたいという考えは捨ててください」
口調こそ柔らかいものの、鋭い眼光で参加者全員を見回しながら放たれた言葉に、参加者全員が一気に緊張し、その場の空気が張り詰める。農業なのに「野菜を育てたいという気持ちを捨てる」とは、どういうことか。川越は続ける。
「まずは5年間。その圃場を徹底的にクリーニングするんです。クリーニングとは、その圃場に残っている農薬や化学肥料、堆肥や肥料といった、自然界の中からは生まれないもの。つまり不自然に投入されたあらゆる資材の影響をすべて取り除くことから自然栽培は始まるんです」
そういうと、今、参加者全員で訪れている川越自身が借りてから8年目という圃場の土を手で掬って、参加者の前に広げる。
「大小色んな丸い粒で土ができているでしょう。これが団粒化。とても緻密でしょう。この圃場で作土層は大体1m20cmくらい。すべて団粒。まだまだ100%の出来とは言えないけど、8年目でこれくらいまでなればいい」
それを見た参加者たちも早速、圃場の土に手を入れる。
「うわあ、柔らかい」
「すごく深くまで手が入る」
自分たちの圃場の土との感触の違いに感嘆の声が上がる。そんな中、「土っぽい匂いがしない」とある参加者がいうと、その声に反応した川越は
「それは、この土が完全に発酵を終えているからです」と応える。
川越は、代々続く農家に生まれた。「一旦、社会に出てから戻るのが川越家の決まり」に則って、20代は医薬品関係の仕事に従事し、29歳で家業を受け継いだ。
「かつては、宮崎の名産でもあるたくあんを1000トン単位で売りまくっていた実家に戻ると、倉庫に600トンもの売れ残りのたくあんがあった。売上帳簿を見ると全盛期の1/3以下。バブルが崩壊したり、社会の構造が大きく変わっている最中でした。これは、農家として変わっていかないと生き残っていけないと強い危機感を持った。考えに考えた上で辿り着いたのが、環境保全型の農業への転換でした」
父の農法を受け継ぎ、日々の農作業に勤しむ傍ら、有機農法や炭素循環農法をはじめとし、堆肥やボカシなどを自作してはあらゆる栽培法に挑戦した。しかし、すべて失敗した。それでも尚、環境保全型の農業を模索し続ける農家の経験のない息子の挑戦に対して、父を始め家族全員が猛烈に反対した。そんな中、最後に出会ったのが、自然栽培だった。
ところが、それまであらゆる農法に躊躇なく取り組んできた川越は、自然栽培にだけはすぐに取り組めなかった。
「ひと言でいえば肥料概念。『堆肥を入れないと(作物は)出来ない』その固定観念に縛られていたから、無肥料への怖さが心の中にずっとあった。それが壁だった」
しかし、目に見えて家業の収益は落ち込んでいく。川越は肚を括った。
「これでダメだったら環境保全型の農業は諦めよう」
幸いにも祖父と父が拡大してくれたおかげで耕作面積は広大にある。その中から二反三畝ほどの圃場を決め、川越の自然栽培への挑戦が始まった。今から23年前のことだ。
勉強会初日。ゆっくりと日が暮れていく圃場で、川越は語り続ける。
「さっきも言いましたが、自然栽培をやろうと思うなら、最初の5年間は我慢。土のクリーニングに専念してください。なぜかといえば、2、3年ではクリーニングが完了しないんです。それでも家庭の事情とかで、始めてしまう人が多い。すると『無施肥でも出来ました』っていうんです。それは、まず農薬や肥料の残肥効果で出来ているか、たまたま固まりやすい土質だったから出来ているだけ。残肥効果なら、その後、効果が落ちれば出来なくなる。土が固かったから出来ている場合でも、秀品率は半分もいかない。そんな後輩たちをたくさん見てきた。そういう後輩たちに何が残るか。(農)業としては成立できないという苦しみしか残らないんだよ」
今回の一泊二日の勉強会の中で、川越は何度も何度も「自然栽培は我慢」というフレーズを繰り返した。
これまでの革新者たちの勉強会のように、栽培技術向上のために知識を深めることや、ビジネスとして成立させるための経営的な手法といったHOW TOよりも、川越は「お前は農を通じて何がやりたいんだ」というWHATとWHYをずっと参加者たちに喚起しているように見える。それは苦しみに耐えきれず自然栽培を断念してきた数多くの無念さを、目の前の参加者たちに味わせたくないからなのだろう。
「ただし、もし5年間我慢することができたら。覚えといてください。6年目以降。毎年毎年良くなっていく。それは間違いない。
一般的には、まず、土壌消毒して、堆肥を入れて、肥料を播く。それから耕運して種を播いている。ウチはその工程が一切ない。いきなり耕運したら、すぐ播ける。ということは、作業効率も上がるし、経費もかからない。売上高の9割は全利益ですよ。
だからね、『5年間、しっかりやっておいてよかった』と『もっとちゃんとやっておけばよかった』。このふたつにはっきり分かれるんです」
「さあ、お前らその覚悟があるか。どうするんだ」そんな思いを乗せたメッセージで初日の勉強会は終了した。
明けて二日目は、一転して、川越が手がけてきた年度が異なる圃場を見ながらの実践講習となった。
まずは、田んぼを畑へ転換して一年目の圃場を訪れた。そこには一面エンバクが育っていた。雑草を抑えるためにかなりの密植である。川越はそこから一本のエンバクを抜いて見せた。「このエンバクの根の色を見てください。茶色いでしょ。これは、根が土中に残っている農薬や肥料といった肥毒に触れたことで枯れてしまったからこんな色になってる。これを覚えておいてください」
これからまさに自然栽培に挑戦しようと考えている参加者たちから、エンバクの育て方、漉き込み方について質問が次々に飛ぶ。
「まずは、こうしてエンバクを手播きでばら播いて下さい。そのあとロータリーを高速で軽く回しておけば育ちます。肝心なのは、育ったエンバクをどのタイミングで漉き込むかということ」
有機農法でも畝間で緑肥を育て、青刈りして漉き込んでいる農家も多い。麦の中の炭素を土に戻すという意味ではそれで十分な効果が得られるのではないか。
「これは土とは何かということに直結しているから少し詳しく話しましょう。それは土作りなんて言葉は自然界にはないという話なんです」
「土ってどんな風に出来たか知ってますよね。何十億年も前から、岩石があって、水があって、苔があって、そこから木が生えて、それが土になってきた。ということは、『何が土を作りましたか』というのが答え。植物ですよね。岩石を土に変えたのは。つまり、土作りとは植物がすることなんです。これが答えの本質」
昨日も訪れた8年目の圃場へ場所を変え、講義は続いた。
「植物が土を作るということは、具体的にどんなことが起きているか。それは、年に一回、落ち葉が落ちてそれが土を作っているということ。だから、それと同じ工程を畑でもやるんです。自然界に刈り取るという行為は存在しないから、途中で青刈りするのではなく、生命を全うして朽ち落ちるまでエンバクを畑でそのままにしておく。そうして枯れ切ってから漉き込むこと。
森で葉が落ちるのと同じように、畑で育ったものが、畑で枯れて、畑で循環していく。自然界の法則と同じ条件を作るんです」
そういうと、川越はそこで育っているネギの畝の側面をスコップで掘り出した。
畑をスライスした様な断面図が現れた。
「まず、見て欲しいのは、ネギの根っこの色。さっきの圃場で枯れて茶色くなったエンバクの根っこと比べてみてください。ネギの根っこ、真っ白いでしょう」
確かに表層から土中まで伸びている根は見事なほど純白だ。
「これが自然栽培特有の根の色。肥毒がない土で育った野菜はこういう真っ白な根になるんです」
根っこを齧った参加者が「根っこがしっかりネギの味がする」と驚く。
「しかも、根が細かいでしょ。慣行農だと、肥料を使って土を冷たくしてしまうので、一本図太い根になる。こんな横根で細かくなるのも自然栽培だからなんです」
手で触ったり、匂いを嗅いでも、土の中がどうなっているのかはなかなか想像がつかない。しかし、こうして、1年目と8年目の土の断面とそこで育っている作物の根の色の違いを見たことで、川越が昨日から言い続けてきた「5年間の徹底したクリーニング」の結果を参加者全員が視覚で体験することが出来た。
「肥毒を吸ったエンバクを枯らして漉き込む。自然栽培では作土層が深いほどいい。だから、年に一回だけ深耕ロータリーをかけて腐食の送り込みをする。好気性発酵に必要な酸素を送り込むために。ただし、深耕ロータリーは大きく土を動かすことになるから年に一回だけだけど、漉き込みに関しては週に一回でもバンバンやる。そうして、それらの腐食がきっちり分解されるには一年くらいかかるから、麦の栽培と合わせて一年半でワンサイクルと考えるんです」
川越の説明を一言一句漏らすまいと参加者が一斉にメモを取る。これこそが、自然栽培における土作りの奥義だと感じているからだろう。そんな参加者たちの姿を見て、川越はすかさず次なる扉を開いた。
「こんな風にして、自然栽培系のセミナーでは、とにかくふかふかで、暖かくて柔らかく、水はけが良くて水持ちが良い土を作りましょうってことしか言わないでしょ。ただね、それだけじゃ、すべての作物を育てることはできないんですよ」
ここからが、この勉強会のクライマックスだった。すべての作物を育てるためのやり方。それは驚くほどシンプルで、同時に自然界の法則に則ったロジカルなやり方だった。
再びネギの断面図に戻り、川越が解説する。
「このネギの表層部分触ってみてください」
すると、表層の部分だけが何故かしっかりと固まっているのだ。
「これはね、ネギもそうだし、葉物全般に言えることなんですけど、(土の)上に出来るものは土の表層を固めないと出来ないんです。例えば、キャベツなんかふかふかの土だったら巻かない。これはすべて植物ホルモンの法則なんです」
植物の根の先端には植物ホルモンが生まれるのだが、その根の当たる部分が柔らかすぎると活性化しないのだ。活性化しないと、葉も育たない。すると葉の光合成から生まれるはずの植物ホルモンも出来なくなる。つまり、葉物の場合は、土を踏み固めると植物ホルモンが活性化される可能性があるというのだ。
「地中で育つニンジンと地表で育つネギって、人間に例えたら全然別の人種でしょ。それを同じ環境で育てようとすることはおかしいでしょ。それぞれの作物にあった植物ホルモンの活性化をしなくては育たない。そのためには、その作物に合わせた土のコントロールが必要なんです」
しかし、一旦柔らかくした土の表層だけを固めるなんてどうやればいいのだろうか。そんな参加者の疑問を感じた川越がいう。
「土を固める方法。どうすればいいかわかりますか。簡単です。踏めばいいんです」
そういうと、川越がネギの畝の上を歩き始めた。
「ほら、こうして歩けば、表層が固まるんです。ただ、しっかり覚えておいて欲しいのは、これが出来るのは、そもそも土がしっかり団粒化して緻密な土になっているから、歩くと上の粒だけが潰れて固まるんです。つまり、ニンジンなんかの根物は土が柔らかくないと育たない。葉物野菜はある程度の表層の固さが必要になる。そういったそれぞれの性格が異なる作物を、植物ホルモンの法則を活用して育てるためには、まず肥毒を抜いて、団粒化した土にしてあげることが第一歩ということなんです。
だから、よく農家さんが土作りっていう言葉を使うでしょ。でも、私からしたら、土作りではなく土戻しなんです。それは、古代から植物が作ってきた土、土本来の姿に戻してあげるということなんです」
勉強会の締めくくりとして、川越が16年かけて手がけてきた圃場を案内する。ほぼ雑草のない圃場では淡い緑色の小松菜が輝くように育っていた。「川越さんの圃場にいると、これが当たり前のように感じちゃう」と苦笑いした参加者を川越は「こっちの畝を見てよ」と誘う。
圃場の端に作られた畝にはまったくといっていいほど育っていないカブたちがいた。
「ここの畝の土を端から端まで触ってみて」
言われた通りに触っていくと、めちゃくちゃ柔らかな土からやや固めの土へ、そして固めの土へと固さのグラデーションが出来ていた。そして、その固さによってカブの生育状態が見事に変化していた。
「足で踏み固めるっていうやり方もこんな風に土の固さと生育の違いを実験したことから考えついたんですよ。だって、一年に一作しか出来ないのに、すべてを同じやり方で育てるなんて勿体無いでしょう。だから、みなさんも、少しのスペースでもいいので必ず、いつも実験をしてください。必ず発見があるから」
川越の最後の言葉を聞いて、「土作りとは土戻し」という川越の言葉が蘇る。自然とはうつろいやすいものだ。だからマニュアル化することはできない。常に自然に問いかけていくことで、答えらしきものを見つけるしかないのだ。川越がいう実験とは問いかけなのだ。自然栽培はHOW TOではない。WHYとWHATなのだ。この勉強会を通じて教わったことは、どのような問いかけを持てるかによって、自然の答えは変わるということだったのじゃないだろうか。問いを磨くこと。それが自然栽培の本質なのではないだろうか。

1泊2日の研修を通じ、何を気付き、何を学んだのか。
参加者たちの生の声を届けるコラム
土の固さと生育状況や虫の食われ具合を実験していた川越さんを見ていると、ストイックに野菜と対話している人なんだなと感じました。同時に既成概念を捨てないといけないなと思いました。覚悟決めてやるかやらないかだぞってことも伺って、やるって決めたので、まずはエンバク育てることから始めます。
ブログを読む7月の勉強会に続いて2回目の参加です。今回は、実際に土作りをした畑の野菜を見ながらの勉強会でした。土の上の野菜だけじゃなくて、土の中の根の状態まで見てようやく土作りが理解できる。それには観察力が必要だとわかったので、自分も土や野菜を観察する力をつけていきたいです。
ブログを読む勉強会に加えて、持参した自分の圃場の土を見ていただいて、硬盤層の深さによって、隣同士の圃場でもウリ科ができやすい圃場と葉物ができやすい圃場のそれぞれの特徴と土の見方を教わったことが収穫でした。緑肥は今も栽培しているのですが、きっちり枯らしてから漉き込むことを実践していきます。
ブログを読む今回の勉強会で、川越さんがおっしゃっていた「調和」という言葉が印象に残っています。川越さんの圃場の土は触ると心が安らぎました。きっと作物と圃場と川越さんが調和されているからだと思います。まずは、ひと畝からでもエンバクを播くことから実践したいなと感じました。
ブログを読む自分も田んぼから畑に転換させている圃場があるので、同じような条件の圃場を見せていただいて、ある程度までは実現可能だなと手応えを感じました。川越さんのように、道無き道を歩いてくださった方がいると、時間はかかるかもしれないけど安心してその道を歩いていけるように思います。
ブログを読む土の状態を判断するにあたって、ネギの畑の根の色と、一年目の圃場の黄色い根を見せていただけたことで、あれがひとつの目安になるんだなと勉強になりました。自分の圃場ではエンバクの背丈が揃わないのですが、それもいずれ揃うとお話聞けたので、これからも継続していこうと思います。
ブログを読む父が俊作さんに指示を仰いで11年。去年から僕がそれを受け継ぎました。日頃から俊作さんには「絶対実験はしろ。一列か二列でも他の条件を作れと言われてます。」内容は畝間だったり、株間だったり、マルチの色を変えるとか、言ったらきりがないんですけど、それはいつも意識しています。
ブログを読む今回勉強会で一番学んだことは、自然栽培は我慢なんだなということ。これから新しく始める畑があるのですが、根気強くやっていこうと思います。土作りの初期段階での効果的な手段を知りたかったのでエンバクのことも勉強になりました。実際の畑を見れたのでイメージが作れます。
まずは、参加者の皆さんがすごく素直だったなという印象です。とても楽しい時間でしたし、新しい仲間といい出会いができたなと思っています。今回は、土についての話が多かったですが、自然栽培においては、種作りと人作りも重要なんです。結局は、畑にはその人そのものが出るから、人を伝えたいんです。ただ、それを伝えるには、まずは土を変えていこうということで今回の勉強会の内容になりました。現実問題として、理想だけでは食えない。お金という理想とは真逆のこととも調和していかなくてはならない。今回学んだことを社会人としてもいかしてもらいたいですね。
photo/Nami Suzuki text/Takashi Ogura

継続的に開催されている勉強会。それぞれの学びを参加農家がレポート。