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Vol.1

千葉康伸(Yasunobu Chiba)

先駆者・山下一穂が塾長を務めた『有機のがっこう 土佐自然塾』での研修後、山下農園の農場長を経て、2010年、神奈川県愛川町にて就農。現在は、自身が代表を務める『N0-RA ~農楽~(のーら)』の経営のみならず、有機農業の普及推進に精力的に励む。有機農業界を牽引する次世代のリーダーの1人。

昨今、有機農業だけではなく、農業界全体としてみても、新規就農者の3割が生計の目処が立たない等の理由から離農している状況にある。就農2〜5年目の農家が参加する今回の研修を前に千葉はこう話していた。「僕の農業は凡人でも出来るやり方。山下さんのような感性から導かれた技術もないです。まだまだ下手くそなんですよ。でも、だからこそ、この研修では、参加者のみなさんが知りたいことに応えていくっていう形にします。そして、失敗も成功も全部さらけ出していきますので、どんどん僕から必要な情報を抜き出していって欲しいんです」

point01

 北海道、千葉、長野、奈良、和歌山、鳥取、宮崎からやってきた開拓者たち7名が圃場に着くや、挨拶もそこそこに、千葉は参加者を育苗ハウスへ案内した。
 「みなさんは育苗をしていますか。育苗の良い点は、発芽が今のような寒い時期にも揃うことです」と、千葉が口火を切ると、参加者も一気にエンジンがかかったように質問を口にする。
 「育苗の培土は何を使っていますか」
 「今、ここで小松菜の育苗をしていますが、品種は何ですか?」
 間髪入れず、千葉も答える。「小松菜は『はっけい』です。白さび病に強く、1本1本が太く育つのが良いんです。培土は、みなさんきめ細やかな土を使っていると思いますが、僕は敢えて粗めな粒のものを使っています。その方が定植してからの生育がしっかりするからです」(千葉)
 到着早々、熱を帯びた空気の中、千葉は農家にとって1番の基本である土作りについて話し始めた。

 「畑でまず第1にすること、それは土壌診断です。土には、化学性と物理性と生物性という3つの側面がありますが、僕らがどうにか出来る領域が化学性なんです。慣行農法では、それぞれの作物ごとに必要な要素を土に入れようと考えますが、有機の場合は畑全体のバランスをいかに整えるかが重要です。そのために、土壌診断で自分の畑の土を知っておく必要があるんです」
 いうまでもなく、日本のほとんどの土壌は酸性であるがゆえに、そのままでは多くの野菜を綺麗に美味しく育てるのは難しい。
 「土作りの大切さを知ったのは、そら豆を育てた時でした。土がしっかりできている土地と痩せた土地で育てたんですが、痩せた土の方だけ、びっしりとアブラムシがついたんです。みなさん、アブラムシが来ると『気候が合わなかったのかな?』とか『雨が足りなくて根が伸びなかったのかな?』とか思うと思うんですが、そうではなく単純に窒素過多だったからということが往々にしてあります。それを教えてくれるのが土壌診断なんです」
 千葉は毎年12月になると、23枚ある畑すべての土壌診断を行ない、その結果に基づき苦土石灰などのミネラルを投入し化学性をクリアする。その上で、千葉の土作りが始まる。

 「師匠の一穂さんは、『畑丸ごと堆肥化』と言って、緑肥もしくは雑草、茅や葦、それと籾殻やEM生ゴミ堆肥を入れて土作りをしていました。ただそれをするには、かなりの人出が必要になります。そこで僕が選んだのが緑肥でした」
 緑肥とは、栽培している作物を収穫まで待たずに刈り取り、そのまま畑にすき込み炭素などの養分を土の中に還元することだ。すると参加者から緑肥の量について質問が飛ぶ。
 「1反5キロもあれば十分です。トラクターは楽ですが、播種機でやった方がしっかり発芽します。ただ、緑肥にもネックはあります。種まいて、すき込んで分解するまで時間がかかるんです。なので、僕は、畑が空いたらどんどん緑肥を始めます。そこで、もう1つ大事なことが、緑肥=土作りをいかに効率的にするかっていうことなんです」
 そういうと、作業小屋へ参加者を連れて行く。そこには、千葉の農場のすべてが一目瞭然でわかるアナログな道具があった。

point02

 出荷伝票や資材のカタログが積まれた小屋に大きなホワイトボードがある。そこには、当面の出荷予定などが書き込まれていたのだが、千葉がボードをひっくり返すと、参加者全員から「おおっ~」とどよめきが上がった。そこに書かれていたのは、点在する千葉の各圃場の形、それぞれの畑のpHと現在栽培している作物だった。
 「こうしてすべての圃場の面積やpHを書き込み、これを見ながら作付けする作物を決めていくんです。例えば、pHが高い圃場にはニンニクをやろうとか。出荷伝票も見直せるので、去年の作物ごとの売り上げを確認しながらスタッフ全員で話し合って作付けを決めます。ここに、年2回作付けを書き込む。そうすれば、全員がいつでも、どこの圃場で何を栽培しているのか。そしていつ収穫なのかを瞬時に共有できるんです」
 IoTなどテクノロジーを駆使した農業が注目を集めているが、千葉のやり方はアナログな道具を用いることの方が多い。そして、何より大切にしていることは、自分が作りたい野菜を作るのではなく、お客さんのニーズがある作物をしっかり作っていくことだという。
 「ニーズのない作物は多くやる必要はない。自分を評価したところで、お客さんに認めてもらえなければ収益にはならない。僕は、プロダクトアウトではなく、マーケットインの考えでやっています」
 自分自身が農家であると同時に、1人の消費者でもあること。千葉は消費者としての視点を持ち続けることが大切だという。

 「例えば、みなさんの中にはジャガイモやサツマイモとか一斉に出回る作物をあえてやらないって方もいると思います。でも、それって僕からしたら、それだけニーズがある作物だっていうことなんです。単価の安い野菜は、経営的な基盤のベースを作るのにはちょうどいいんです。だからそこで少しだけ工夫する。
 同じジャガイモでも、他の人がやらないような品種をやってみる。実際に僕はレッドムーンというジャガイモをやってますが、キロ単価で1番安くて280円。高いと360円になります。食味が違うのでお客さんの反応も良い」
 こうして徹底的に市場優先を貫くためにも、ホワイトボードに書き込まれた情報を毎日チェックすることが自分のブレを防いでくれる。
 「マーケットインで考えるということは、いつ何が出せるかということがポイントになるんです。つい、いつから種まきしようかと考えがちなのですが、お客さんから聞かれることは『いつそれが来るの?』ってことですよね。だから、栽培する品目をこうして書き込めば、『じゃあいつに出すなら、いつ播種すればいいか。さっき話した緑肥もいつ蒔けばいいのか』ということがパッと逆算できるようになるんです」
 さらに、千葉の畑には作業の効率化を図る仕掛けがあった。
 「これらの畑の作付け作物を見てください。キャベツの隣は、カーボロネロ、その隣はかつお菜って書いてあります。これどういうことか分かりますか。収穫が2,3,4月と順々に終わるように作付けしているんです」
 収穫時期をまとめて効率化を図り、終わった畑から緑肥を蒔いていくことで、農場全体をマネージメントしていたのだ。

point02

 「サツマイモを5月から植え付けるとします。すると僕の頭の中は、11月に収穫するには3月の土中へのミネラル補給から仕事が始まるんです。そして、5月の頭には高畝のマルチを張って、サツマイモを植えていく。通路はすべて防草シートを張ります」
 マルチについて話が及ぶと、参加者からはマルチの張り方や機材などの細かな質問が相次いだ。
 「ナスを育てる際に黒マルチを使っているのだがうまくいかないのですが」
 「ナスは確かに地温が必要です。でも、6,7月になるとどんどん気温が上がってくるので黒マルチでは熱くなりすぎちゃいますね。オススメは、銀黒マルチと言って、表が銀で裏が黒いマルチです。これだと温度もそこまで上がらず、なおかつアブラムシの忌避効果もあるんです」

 また、別の参加者からは、抑草のために通路にもマルチを敷いているのだが、畝の肩の部分がうまく止められず、剥がれてしまうという声も上がった。
 「通路は、防草シートを敷くのが1番いいと思います。そうすると肩の部分から草が出るかもしれません。その場合は、肩に緑肥を蒔いたらいいと思います」ちなみに、緑肥の種類と播種時期については、1,2月を除けば、3月はライ麦。4月はそれに加えてエンバクも。そして5月からはソルゴーとエンバク。7,8月はソルゴーのみ。9~11月までがエンバクで12月にライ麦になる。
 「何度も繰り返しますが、畑に微生物資材や乳酸菌などを入れると、確かに一気に微生物は増えます。でも、その微生物が繁殖できる環境になければ、結局はまた減っていってしまう。それなら、お金がかからなくて、勝手に植物が育って土にエネルギーを還元しながら微生物を増やしてくれる麦やソルゴーをメインにしたほうがいいと僕は思っています」
 参加者からの質問に対し、千葉の口からは何度も「作物を絞ったほうがいい」とのアドバイスが出ていた。その理由は、就農1年目に自身が体験してきたことから生み出した農場経営の根幹だったからだ。

 「就農1年目。1.4haくらいを1人で回してました。大体50品目くらいやりました。とにかく、どんどんどんどん色んな作物を植え付けていきました。そうしたら、果菜類をやった畑が全然ダメだったんです。夏からは草にも追われて。9月頃はこのままやっていけるのか不安でしょうがありませんでした」
 不安の原因は、今から考えるとメインの作物が定まっていなかったからだと千葉は言う。そこで、伝票をひっくり返すとキャベツや玉ねぎの売れ行きが良かったことが分かった。そこで、玉ねぎは育苗せずに直播を選択した。
 「定植は、1度根を土から剥がすことになる。秋冬の定植は活着まで時間がかかります。直播のいいところは、根域がすごく広がるんです。そうしたら肥料が少なくても大きな良い玉ねぎができますよ」
 マーケットイン×風土。その答えを千葉は「適地適作にすべく作物を絞る」とアドバイスしていたのだ。

point04

 1泊2日の研修は、座学と合わせて圃場を見学しながらの質疑応答にもたっぷりと時間が割かれた。季節柄、人参やニンニクなどの作物を見ながら研修になるのだが、その時、参加者から「夏野菜について知りたいのですが」と質問が出た。今回の研修で最大のポイントがこの質問に対する千葉の回答だった。
 「夏、やらないです」千葉の答えに参加者全員が「え?」と聞き返す。
 「1,2年目で、夏野菜を追いかけるとお金にならないと実感したんです。どうしてもちょこちょこ取れるから、つい畑に置いといちゃうんですよね」
 千葉の言葉に「そうなんですよ」と声が上がる。
 「でも、ずっと置いておくっていう事は、土作りも出来なくなるし、9月からの作付けにも影響するんです。という事は、11月から3月までの収益に影響するんです。僕は、自分の経験で秋冬の野菜の方がずっと収益性が高いことを知りました。だとしたら、夏に目先の金額を追いかけるのではなく、8月は思い切って捨てようと思ったんです」

 夏野菜は人気も高いし、収穫期が長いので安定した収益になると漠然と思っている農家が多いが、このやり方を編み出したのには千葉自身の壮絶な1年目の日々があったからだ。
 「就農1年目、僕は毎朝、3時半頃に起床して4時から枝豆やトウモロコシを収穫。6時半頃に帰ってくると朝食をかきこんですぐに袋詰め作業。8時半頃に出荷に行って、戻ってきたらまた畑。真夏の一番暑い時間帯をぶっ通しで働いて。夜に自宅に戻ってからも子供を寝かせたらまた袋詰め。ここまで働いてもあまりお金にならなかったんです。
 それで2年目から秋冬のものを増やすようにしたら、収益性がぐっと上がった。なので、春夏に頑張るより、秋から頑張った方が収益上がるんだとイメージができたんです」
 1年目の収益は150万だったのが、2年目には380万、3年目には670万になった。最後に、どうやって自分をブランディングしていけば良いのかというテーマになった。販路の確保拡大につながる重要なテーマだ。今ならSNSを駆使した発信などに注力する農家も多い。だが、そこでも千葉のやり方はどこまでもアナログだった。
 「僕は、就農当時から秀品ばかり出荷してきました。僕は売り場に立っているわけではないから、お客さんが見てくれるのは野菜なんですよね。という事は、野菜に力があれば良いんだろうなと考えた。食べて美味しいは当たり前。でも、その手前で『この人の野菜はいつも綺麗だな』って思ってもらう事。それが僕がお客さんに対して出来るブランディングだと思ったんです」

 収益を上げる、効率を図るなど、千葉の口から出る言葉は一見ビジネスライクなようにも聞こえる。だが、その根幹には「儲けたいではなく、続けたい」という千葉の農への思いが込められていた。
 「今回の研修にも女性の方もいますけど、女性からは『力仕事や機械では男性にかなわない』なんて相談されるんですが、女性は収穫と袋詰めが丁寧で早い。袋詰めで時間がかかる作物は単価が稼げるからそういう作物をたくさんやってみたり、じゃがいもひとつとっても、あえて手掘りのジャガイモっていう打ち出し方もあると思うんです」
 農業には、もっと言えば野菜ひとつひとつにさえも農家自身それぞれの思いが込められているはずだ。千葉は「あなた自身の思いを、あなたなりのやり方で届けてください」と伝えたかったのではないだろうか。

1泊2日の研修を通じ、何を気付き、何を学んだのか。
参加者たちの生の声を届けるコラム

  • 慣行農家さんのもとで研修をしたので、有機農家の全てを見たいと思って参加しました。今回の研修では土作りとブランディングについてたくさん学べたと思います。千葉さんと出会って、これから自分がどう変わっていくのかがとても楽しみです。

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  • 野菜セットをメインにしているので、作物を絞るという考えは異なるのですが、育苗について色々知れたことが勉強になりました。それと、1人で稼げる上限を僕は700~750万と設定していたのですが、 千葉さんと話してもう少し頑張ればあげられると励みになりました。

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  • 土作りに対する考えを聞きたくて参加しましたが、1番参考になったのは思考回路ですね。畑で作物を育てる以前からというか、作付け計画の時点で作業全体の半分くらいは終わっているのだなと。あとは灌水設備のない畑でのニンジン栽培の方法は勉強になりました。

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  • 夏作に頼らず、秋冬作で経営を成り立たせるという着眼点はすごいですね。ナスやトマトに頼らずに、玉ねぎやニンニクとか緑肥の回転も詳しく知れて良かったです。うちは田んぼを畑に変えているので、土のレベルごとに適した作物の話も参考にしながら作付け計画をしようと思います。

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  • 今の僕の課題は栽培の生産性をとにかく上げること。栽培技術を是非知りたいと思い参加しました。夏場の果菜類の収穫を長期間引っ張らず、冬春野菜の作付準備をしっかりとすること。個別の栽培技術も重要だが、目先の売上に捉われず、年間の売上確保のために捨てるべきものは潔く捨てるべし。それが何よりの学びでした。

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  • 僕も『有機のがっこう 土佐自然塾』の卒業生で千葉さんの5年後輩にあたります。僕自身、山下さんに教わったことをなるべくそのまま畑に生かしてやっています。経営もこれからもっと良くしていきたいので、千葉さんの価格設定は参考になりました。玉ねぎの直播の利点もわかったので実践してみようと思います。

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  • まだ就農2年目なので、マルチの張り方から、作付け、畑の土の作り方まで何から何まで知りたいって感じです。ホワイトボードに書いていた畑の回し方はすごく勉強になりました。育苗の失敗もしてるので、育苗のやり方もめちゃくちゃ為になりました。

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こんなに喉が痛くなるくらい、参加者全員が貪欲に質問してくれる研修は珍しいです。参加者の方々が、僕の後ろに山下一穂さんを見てくれていることは分かっていますし、それはとても嬉しいことです。ただ、僕は一穂さんのような雲の上的な存在ではない。一穂さんは、みんなが一穂さんの背中を見て追いかけていた。僕は、今日の研修を通じて横に並んで一緒に走っていける仲間と出会えたと思っています。とてもパワーをもらえて、皆さんに感謝しています。

photo/Misaki Yanagihara text/Takashi Ogura

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