2017.12.14
カズホさんの急逝
僕の師匠であり先駆者であるカズホさんとの出逢いは、一冊の本だった。環境保全を生業に出来る仕事はないか、と妻の枝実子と模索している時、一冊の本を枝実子が持って来た。『農業を始めよう!』という就農特集本だった。ペラペラとページをめくると、そこにカズホさんがいた。「この人が一番カッコいい!話を聞きにいこう!」そう決めてすぐ、有機のがっこう「土佐自然塾」に行き、カズホさんに話を聞いてもらった。
「環境を守りたい、次の世代に溢れる自然を残したい」と意気込む若い二人の話を、ニコニコしながら、決して軽んずること無く真剣に聞いてくれた。「愛だな、愛!」と言ってもらった。こんな大人に初めて出逢った!こんなに真っ直ぐ理想を持ち、諦めの微塵もない人。出逢えてうれしかった。
それからカズホさんの山下農園に弟子入りするのに3年の歳月を費やしたが、真っ直ぐカズホさんの元に行き、真っ直ぐに鍛えられ、真っ直ぐに農業を始めた。今年は、軌道に乗らない僕の営農に喝を入れてもらった。
農業に向き合う姿勢を一新し、畑を見直し、田んぼを見直し、再スタートの狼煙を上げようとした矢先の訃報だった。夜のメールチェックで知った訃報は信じれないまま、翌朝カズホさんとの別れを悲しむ投稿を発見して、現実だと知り、畑に走って思いっきり泣いた。
いてもたってもいられず、高知の山下家へ車を走らせた。朝の4時に着いた。さすがに門を叩くわけに行かず朝まで待った。奥さんのみどりさんが「まさちゃんきてくれたん」と迎えてくれた。また泣いてしまった。カズホさんにお別れを言うつもりで対面すると不思議と涙は出なかった。何故か勇気を貰うというか、納得させられた。走り続けたカズホさんからは、「走り続けろ!」というエールを貰った気がした。お通夜まで山下農園で久しぶりに働かせてもらった。農家には涙より汗が似合う。告別式の後も働かせてもらった。「日があるうちは外で働きたい!」そんな気概がみるみる沸き上がった。「カズホさんが見事に突撃隊長を勤め、切り開いた一筋のキラキラした道を、僕たちが広げるんだ!」そう心に誓った。もうウダウダ言う暇はない。とにかく突撃するのみだ!
(山下農園の現農場長の潤さん〈3年前まで農園で一緒に働いていた同僚〉に、彼がやったことがないという土寄せと代掻きを伝えながら、冬水田んぼの準備をした。)
東樋口正邦(とうひぐちまさくに)
奈良県 平群町
1981年奈良県生まれ。京都大学理学部で宇宙物理学を学ぶ。高知の山下農園で3年間研修し農場長を務めた後、2015年に奈良の実家に帰って就農。妻と自分の愛称を冠した「eminini organic farm」では「畑から虹を」をモットーとしている。