2017.05.11
有機の芽吹き
ゴールデンウィークと言えば、米の苗代(なわしろ)だ。
田植えの前に、苗床を準備し、もみ(稲の種)を蒔く。
若い頃は遊びの計画と重なって親父と喧嘩、サラリーマンになってからは
仕事で苗代準備に参加出来ずに喧嘩、僕が有機栽培を始めてからは
「農薬なんか使わん!」とまた大喧嘩。
大昔から自然に呼吸を合わせ、家族で力を合わせて行う苗作り。
重みがあるから、小さな都合で喧嘩する。重みがあるから、苗が芽吹くと笑顔になる。
喧嘩に始まり、笑顔に終わる。家族の大切さを感じる、農家ならではの年中行事だ。
(苗代にて苗箱並べ。既にもみが蒔かれた状態の苗箱のため、卒業証書授与のように大切に受け取る。)
(お米のベビーベッドに傷を付けないように苗箱を慎重に並べる。有機の土は水を吸いにくいため、少しの凹みで、苗箱とベッドが密着していないと、発芽しないこともある。まだまだ試行錯誤の有機の苗づくり。いつも芽吹きが揃うまで緊張の連続だ。)
(苗代で、無事芽吹いたお米の苗)
最初は反対していた親父も、今では有機のお米を作っている。
親父が有機に切り替えたのは、僕が周りの反対を押し切る形で実家を離れ、
有機農業研修を始めた次の年だった。それまで無理言って、家の一番小さな田んぼで作っていた有機栽培の米作りを、なんだかんだ言いながらも、僕を気にかけてくれる親父が引き継いでくれていた。
その年の夏、実家のある奈良は酷暑。そのせいで親父の米は、未熟米や色米が出てしまってい
た。個人売買をしている父親は、その除去を手作業で行い、眠れない日々を過ごしていた。
翌年の5月、苗代を手伝いに帰ると、何を間違ったか、「おまえの米を精米してしまった。」と言われた。さらに親父は、「出荷に使ってもいいか?」と続けた。
「有機米なんか虫食いだらけだろう」と、それまで意に介さなかった親父が、どうした事かと聞いてみた。「お前の米、極上じゃないか!虫食いどころか、ほとんど色米が出ていない。理由は分からないが、有機はこんなに暑さに強いのか…。」と答えが返って来た。
翌年以降、親父は全ての米を有機栽培に切り替えた。論より証拠ということか。
「有機にしよう!」なんて言わなくても、周りの農家はみんな見ている。
いいものを作る。それだけに集中すればいい!
ゴールデンウィーク、有機の芽吹きを感じる季節だ。
東樋口正邦(とうひぐちまさくに)
奈良県 平群町
1981年奈良県生まれ。京都大学理学部で宇宙物理学を学ぶ。高知の山下農園で3年間研修し農場長を務めた後、2015年に奈良の実家に帰って就農。妻と自分の愛称を冠した「eminini organic farm」では「畑から虹を」をモットーとしている。