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2022.07.13

適疎生存 不足は地球を救う

干魃気味だった5月からうってかわって、特に6月後半からは蝦夷梅雨の名に相応しい天候の北海道です。大地を潤し、森を育てる恵みの雨ですが、続けば畑の草も元気に伸びて、晴れ間を狙っては草取り、種まき、苗の植え付けとあれこれ忙しくしています。

こういう天候の時、今試みている部分浅耕(畝やベッドのみごく浅く耕して通路を不耕起、草生にしておく)という方法は、対応の幅が広がるのではないかと思っています。通路が常に草で覆われている状態なので、結構な雨量でもぬかるんだり、踏み固めたりしづらいので草取りにも入ることができ、逆に旱魃時でも通路の草が地下水を吸い上げ、露を落とすので乾燥しにくくなります。地面への直射日光が遮られ、かつ草の根に棲みつく根圏微生物や動物の働きが活性化し、無肥料でも養分循環と腐植の堆積によって土壌が保たれ、作物も健全に育つなどなど、メリットがたくさんあるのです。

反面、通路を広くとるので作物を密に植えることができずに、収量は慣行と比べればダウンするというデメリットもあります。しかし圃場全体としては常に一定以上の緑が保たれているので、生物多様性の保全、CO2の土壌への吸収、表土流出の防止など、なかなか経営面では取り上げられないその土地の生産性の向上という面は、もっと価値をおいていく必要がある視点だと思っています。

また、この方法なら大きな機械無しである程度広面積を担えるので、担い手不足により広面積をカバーしなければならないが機械化するコストがかけられず、かつ中山間地域など土地の形状も様々で機械作業に不向きな土地柄でも、ある程度やっていけるのではと考えています。

今のところうちは、トラクター無しの歩行型耕運機のみで2.5haの土地を夫婦2人で切り盛りしている状況で、まだ段取り不足な面もありますが、もっと慣れてくればさらに面積を増やすことも可能だなと考えています。

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最近、自分の中でキーワードになっていることの一つとして「疎(そ)」(間がすいている、まばらという意味)という言葉があります。

前回のブログで登場した矢野智徳さん。様々な話しの中で胸に響いたのが、「自然界の法則は不足が常。適度に不足した状態があってはじめて水も空気も生き物もゆるやかに安定して動くことができる」という内容の言葉でした。たしかに作物を密に植えると、互いに光を奪い合ったり、風通しが悪くなって病気や虫にやられやすくなったりしますが、適度に「疎」に植えて、かつ違う特性をもった植物と混植したりすることで肥料もなしにちゃんと健全に育ちます。

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思い返せば、農業にしても都市計画にしても、今までの方向性としては、どれだけ綿密に生産性と効率性を高めるかという方法論で推し進めてきた結果、人にとってもその他の生き物にとっても非常に窮屈で、生きづらい環境になってきてしまった、その結果が現在のコロナ禍であり、社会全体の行き詰まり感に現れている気がします。

戦後の復興ブームによって地方で一次産業従事者が増えた結果、農山漁村には歴史的には稀なほど人口が増え、その時代に整備されたインフラが人口流出とともに機能しなくなり、一時の人口と比較して過疎化、過疎地域などと呼ばれるようになりましたが、実は今の人口密度で相当面白いことがやれるのではないか、自伐型林業(伐採を業者に任せるのではなく、山主または管理者自ら間伐や搬出などの手入れを行う小規模ながら長期的な目線に立って森林を育てていく林業。同時に環境保全にも優れた手法。)や農業、漁業など天然の恵みをいかす生業が、本質的に再生する条件は徐々に整いつつあると希望を持っています。今住んでいる長沼町は、全然過疎地域ではないですが、それぞれがのびのび自立して暮らしている「適疎」地域といえるかも知れません。

よく、環境保全とか自然農とか言うけど、それで人口100億人養えるのか?という議論があります。しかし、そもそも世界中どこでも通用する普遍的な農法が存在して、それさえあれば世界人口を養える訳ではなく、その土地土地にあった適切な方法でローカルな人口を支えるという視点に立たなければ、結局その土地の持つ力や特性に合わない事業を一律に推し進めて、自然環境や人々の暮らしを損なってしまうことになります。

全てが潤沢にある世界を目指すのではなく、自然界は不足が常、そのなかでどうやって満ち足りた生き方ができるのか。足るを知れば世界は豊かである。その土地がもたらす恵みの量に見合った暮らしを、さらに言えば、土地がもっと豊かになるためのマスターピースとしての役割を担えるのが人間であり、農家はその最前線に立っているのだと思います。


農と蔵たなどぅい
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玉城聡将

玉城聡将(たまきあきまさ)
農と蔵 たなどぅい
北海道 長沼町

1992年愛知県生まれ。和の料理人を経て、義父が営農する北海道へ居を移す。2022年4月、「農と蔵 たなどぅい」を開業。夏は野菜を育て、冬は蔵人として醤油を仕込む。土壌や微生物、小動物相を豊かにすることで、植物が持つ本来の生命力を発揮できる手助けをし、「種取り」をすることで栽培種の多様性保全も視野に入れる。「常に自然を師匠として学び、授かったものは与えるためにある」という信念の下、「土地に仕える者」として仕事に取り組む。

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