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2022.05.10

一人角力(ひとりずもう)、潔く負ける

ここ北海道長沼町ではゴールデンウィークにようやく桜が咲き、柳や白樺が他の樹々に先駆けて梢をほころばせながら、薄みどりの新葉を開いていきます。

トマトの苗も苗床が窮屈そうに見えたので、ぐんぐん伸びる日足に追い立てられるようにして、ハウスに一回目の定植作業を行いました。一本一本手作業での定植を終え、心地良い疲れを感じながらその日の作業を終えました。

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ところが翌日、強い霜が植えたばかりの苗を襲い、多くの苗が大きなダメージを負ってしまいました。幸い、苗は十二分に用意していたのでまだ取り戻すことができますが、よく育ってくれていたトマトに申し訳ないことをしてしまいました。

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育苗ハウスでは低温順化を行い、外気温1度のときにもびくともしていなかったことから過信してしまい、判断を誤った僕の責任でした。ゴミになるビニール資材を極力使わないようにしたいために、トンネルやマルチをかけずに済むギリギリのタイミングを狙っていったのですが、自然は一つのミス、人間のエゴを見逃してくれるほど甘くはありません。あと一日我慢すれば結果は全く違ったことでしょう。

自然がもたらしてくれる癒しや恵みを授かるのも、気象や災害のリスクを背負うのも、農家の人生の一部。それらを甘んじて受け入れるだけの度量があるか、そこが試されていると感じています。

この出来事で思い起こされるのが、愛媛県の大山祗神社の御田植祭。その神事では、一人角力が奉納され、目に見えない稲の精霊と力士が相撲を取り、精霊が勝つとその年は豊作になると言われています。テクノロジーや科学で自然を打ち負かそうとするよりも、精霊と一人角力を取って潔く打ち負かされる方が、なんとなく人間の生き方としては豊かな気がします。自然とがっぷり四つに組んで、投げ飛ばされて土まみれ。

就農1年目で重要な学びを得られたことに、感謝して生きねば。


農と蔵たなどぅい
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玉城聡将

玉城聡将(たまきあきまさ)
農と蔵 たなどぅい
北海道 長沼町

1992年愛知県生まれ。和の料理人を経て、義父が営農する北海道へ居を移す。2022年4月、「農と蔵 たなどぅい」を開業。夏は野菜を育て、冬は蔵人として醤油を仕込む。土壌や微生物、小動物相を豊かにすることで、植物が持つ本来の生命力を発揮できる手助けをし、「種取り」をすることで栽培種の多様性保全も視野に入れる。「常に自然を師匠として学び、授かったものは与えるためにある」という信念の下、「土地に仕える者」として仕事に取り組む。

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