2023.05.24
防除と調和と営みと
防除の時期。5月はとっても過ごしやすい気候で好きです。青々と植物がグングン成長する時期ですが、同時に虫たちも勢いを増してきています。今年は暖かく、観測史上最速のリンゴの開花。ゴールデンウィークにはもう結実した幼果がぷっくりと膨らんでいます(写真は5月5日)。作業も夏まで植物との追いかけっこ。
(2週間早いリンゴの結実)
リンゴは基本的に防除無しには生業にならない農産物なので、少なくとも防除はしっかりしています。「農業を営む者として」まず確実に実を生らせる必要があります。慣行も有機も無農薬も、私にとってはあくまで手段。「地域との調和が第一優先」なので、柔軟に対応するために、畑ごとで仕立てや農法を変えています。リンゴ畑が隣接している場合には防除する必要性は出てきますし、住宅が隣接していれば防除が苦情になる可能性もあります。特に陸前高田の場合、震災からの高台移転などに伴い計56ヘクタールものリンゴ畑が失われるとともに、畑に隣接した住宅も多くなったので、諸々の細かい状況判断が必要です。
(環境に配慮しつつ防除)
現状、地域の担い手が減る一方で、やる作業量は減らず、経費が上がる一方で、市場価格は平行線。ついでに私の場合、地元出身者かつ震災きっかけで、将来の就農を見据え逆算してソムリエやワイン流通等の修行もしてきた"就農"なので、再現性はほぼなく、新規担い手のモデルとしてカウントされるのは少々違和感。ゆえに、多角的な視点で、次世代への継承の仕組み化を官民一体で図っていきたく、行政などには新規栽培方法や品種導入、企業提携などを地道に働きかけてはいるのですが、システム上それもなかなか難しい状況です。
意外にも、陸前高田のリンゴ、ブドウは日本でもトップクラスの歴史があり、明治初期から続くリンゴ園もブドウ園もあります。日本の果樹産地は、ほぼ内陸にあり、日本のワイナリーも山梨・長野・北海道・山形の順で多いのですが、陸前高田のような海洋性気候のところはありません。海洋性気候では、盆地や内陸や高山性気候に比べて、海の水の影響で日夜の寒暖差が少なく、夏は涼しく冬は暖かい気候になります。そのため、海沿いの地域が果樹産地となるには、海流が寒流であったり、入江に海上で冷やされた空気が入ってくる地形であることなど、果樹にとって良い条件が重ならないとなかなかうまくいきません。でも、陸前高田では、標高が高い氷上山からくる冷やされた空気によって寒暖差が生まれます。三陸沿岸では400m級の山々ばかりですが、874mある氷上山だからこそ可能になります。だからこそ、陸前高田は果樹産地となり得ています。
私は「農業は根本は科学であり、文化でありアート」つまり「過去・現在・未来は同じ文脈上にある」ものと捉えており、先人が長い時間をかけて地域の気質・気候・風土を解明してきた文脈はなぞらえるようにしています。地域に全く文脈のない農産物は失敗する可能性が高いので、私はする気はありません。ただ、現状維持も良くないので、ピボット(方向転換)していく必要はあると思います。
醸造用に向いている品種や栽培は、ブドウもリンゴも、pHを低く(酸っぱく)、小玉で、見た目も気にせずOK。醸造用は、生食用より時間も経費もだいぶ省略できるので、産地を守るひとつの有効な手段だと思います。陸前高田において、外貨獲得や人員確保や温暖化対策にもとても有効で、ペアリングで水産や観光とも親和性が高く、何より地勢は真似できないのでオリジナル性が強い。
三方よしを考えつつ、柔軟に、使える手段はなんでも使い「経営のサスティナブル」「環境のサスティナブル」「地域のサスティナブル」をクリアする。「郷に入っては郷に従え」ではないですが、「農業は地域の"天地人"全てとの調和」が必要なのだと常々思います。
(継承した畑に植っていた「紅魁(Red Astrachan)」というリンゴの古代品種の接木)
ドメーヌミカヅキ
HP https://domaine-mikazuki.com/
及川恭平(おいかわきょうへい)
ドメーヌ ミカヅキ
岩手県 陸前高田市
1993年岩手県生まれ。高校2年時に地元・陸前高田市で東日本大震災を経験。残された自分が生きる意味を問い、地元産業の担い手になることを決意。醸造、法律、テロワール(味や性質を左右する土壌や気候、職人の技術などとりまく環境のこと)理論、営業、経営の知識を身につけ、2020年帰郷。リンゴとブドウの栽培を始め、2021年3月、ワイナリー「ドメーヌ ミカヅキ」を開業。自家醸造所の建設も視野に、まちづくりに貢献する経営を目指す。
- 過去の記事を読む