2017.09.24
農業と多様性
稲刈りが終盤になり、田んぼの父ちゃん達の顔に今年も安堵と諦めの入り混じった表情が見られる季節となりました。僕の田んぼは慣行の田んぼより2週間ほど刈り取りは遅いため、
広い平野の中でポツンと1カ所黄金色を残しています。
今年の能登地方の作柄はどうもあまり良くないようです。
「暑くて眠れないような日が無かった」というのが大方の田んぼの父ちゃんの見方で、
青い未熟米が多い様子です。
天候っていうのはホントどうしようもないですからねえ。
僕も今となってはもう祈るばかりです。
(奥にあるのが、ポツンと残ったうちの田んぼ。珍しく倒伏しています。)
さて、終日田んぼで祈っているわけにもいかず、そろそろ薪作りも終わらせないと、
レンコンの収穫が始まってからの作業に大きな支障を来たすため、
最近は来る日も来る日も山に入り、倒してある木を運び出し、薪を割る日々を続けています。
冬季に出荷する薪は8~9kgずつ束にして、約700束。結構な量です。
林内に転がしてある原木を僕が運び出し、既定の40cmに切り揃えた丸太を薪割り機で割って結束していくのですが、この薪割りと結束の作業を手伝ってくれているのが、
障害者の就労支援としてカフェなどを運営している「夢生民(ムーミン)」のメンバーです。
前々回のブログで少し紹介しました。
今季で2年の付き合いですが、彼らがいてくれるおかげで山の仕事が回っていると言っても過言ではないほど、本当に助かっています。
僕のような規模では、パートさんを雇うほどの仕事量もなく、かと言ってちょっとした作業の手伝いは散発的且つ頻繁に必要となるため、「しばらく晴れだから薪割り!」という突発的な依頼にも、ある程度融通をつけてくれる彼らの存在がとてもありがたいのです。
子供の学校のPTAで意気投合した人のお母さんが「夢生民」を立ち上げた人だった、
というのがそもそもの縁なのですが、夢生民さんは障害者が生き生きと働ける場所を自ら作り出す傍ら、地域の中にも見出そうとしていました。人手が欲しい僕と、そのような場所を探していた彼らが出会ったことは縁に恵まれたのですが、決して偶然ではないと思います。
(夢生民のメンバーとの作業風景。普段はカフェなどで働き、山の仕事を依頼するとシフトを変更して山に来てくれます。)
そして何より彼らの仕事ぶりがとてもいい。
真面目なだけでなく、山の仕事を楽しんでやってくれます。
それだけではなくて、自分の仕事として責任感を感じてくれています。
今、彼らには、薪割りの他に椎茸の植菌、収穫、ほだ場の整備まで山の仕事の大きな部分に関わってもらっていますが、そんな彼らの仕事ぶりを見ていると、僕の集中力もいつもより上がります。とてもいい心の循環が生まれます。
休憩時間の話も、近頃は仕事場の不満や愚痴、昔、学校で受けたひどい扱いなども話してくれるようになり、彼らの背負ってきたものも少しは理解できるようになりました。
農業っていうのは、障害者という社会の片隅に置かれがちな人たちにも、能力を発揮し、仕事の喜びを感じられる大切な場所になりうるんですね。
多様性は、どんな分野でも底力を生み出す源泉なのだと、彼らから教えられています。
(昨年のクリスマスに夢生民さんから頂いた感謝状。これまでのどんな表彰状よりも嬉しかった。)
新田聡(にったさとし)
石川県 羽咋市
1969年石川県生まれ。震災で居住地の放射線量が高くなったことを機に、生きる道を模索し農業を選択。2013年、出身地の小松に近い羽咋市で「ウッドランドファーム」を開く。人が集う「山の駅」を作りたい、山で音楽祭を開催したいなど夢が広がる。