SHARE THE LOVE

2016.11.28

熊本 耕す人びと1.「畑からの手紙」椛嶌剛士

「農業=暮らすこと、生きること 野菜と言葉に想いを込めて発信」

kumamoto-298-Edit

 その手紙は、こんな書き出しから始まっていた。

 改めまして、このたびの熊本地震ではご心配、お心遣い、お見舞いをいただきまして、本当にありがとうございました。

 この手紙は、南阿蘇村の農家・椛嶌剛士さんが野菜の宅配セットを購入しているお客さんに送っている「椛島農園今週のおやさい」というお便りで、地震が起きて以来、初めて書かれた言葉だ。

 「僕はとにかく発信を大事にしています」との言葉通り、隔週で発行されるお便りは、毎回、A4サイズの用紙の表裏両面にビッシリと手書きの文字が詰まっている。手紙は、こう続いた。
 こんなにも早く再開できたことにただただ感謝の気持ちでいっぱいです。(中略)そして何より「いつでも送って。待ってるからね」とあたたかなお気持ちを下さった皆さまのおかげでこうやって発送できます。この気持ちをこれからも心にとどめて、新しい気持ちで就農10年目の農繁期を歩んでいこうと思います。

kumamoto-143-Edit

 「農業=暮らすことだし、生きること。だから仕事と切り離されていない時間というのが1秒もないんですよね。生活の全てがお便りのネタともいえます」というように、「椛島農園 今週のおやさい」には、畑のこと、野菜のこと、家族のこと、子育てのこと、地域のことなど、椛嶌さんが日々感じたことが溢れるように書き綴られている。

(写真キャプション):有機農業はカフェの時代に突入したと語る椛嶌さん。「だからこそ、あのマスターが好きというような個性が農家にも必要。それが僕にとっては手紙です。これからは、野菜の宅配以外にも地元に還元出来る農業もしたい」

_S2I4051

 大学を卒業後、東京でサラリーマンも経験したが肌に合わなかった。自然の中で、腕と知恵さえあれば生きていける生き方を探し、たどり着いたのが農業だった。全国各地の有機農家さんを訪れ、数年間の研修を経て、南阿蘇村で就農した。南阿蘇村の魅力は、自然の豊かさと人だと椛嶌さんは言う。
 「人が管理している自然と管理していない自然が両方ある。農地もそうですが、ここに広がっている草原は、人間が自然との関係において生み出した。景色も素晴らしく、気持ち良い。だから、僕は有機農業というよりも、農場が好きなんです」

 その言葉通り、椛嶌さんは毎日、日が昇っている内は畑にいる。夏場は朝の5時には起きて畑に出る。いくつもの畑を飛び回りながら季節ごとに旬の野菜を育て、田んぼで米も作り、130羽も平飼いしている鶏の世話をしながら、米と野菜と卵を詰め合わせたセットを全国の契約している消費者70軒へ届けている。

 情熱と体力だけを武器に妻と二人で夢中で走り続けた10年間だった。だが、第二子が誕生し、妻がこれまでのように農作業をあまり出来なくなったことと、地震で思うように畑に出ることも出来なかった。今年の夏が、一番苦しかったという。それでも、9月の便りにはこう書かれていた。

 そうだ!苦しい夏を乗り切ったからこそ、楽しいアイデアもうかびます。(中略)次の冬、豚舎を立てます!百の仕事をやっての百姓。そういうのが性に合ってるようです。やったるゾ~。
 メールでも電話でもない。紙いっぱいに書き込まれた手紙を読みながら椛嶌さんの野菜を食べる。畑の味を噛み締める。冬の便りが待ち遠しい。

kumamoto-085-Edit

[ プロフィール ]椛嶌剛士(かばしまたかお)
1976年福岡県生まれ。大学卒業後、都内でサラリーマン生活も経験したが、「自然相手の仕事がしたい」との思いから、各地の農家・農場を訪ねる。研修を経た後、2006年、熊本県・南阿蘇村で就農。少量多品目で栽培した野菜を宅配で販売している。妻と二児の父。

お知らせ・レポート

archive

category

BACK TO TOP