SHARE THE LOVE

山下一穂

日本の未来のためになる有機農法のやりかたをみんなに教えたい

農業は楽しくて楽しくてしようがない

東京や大阪でも「すばらしくおいしい」と人気の完全無農薬野菜の作り手。
「有機のがっこう土佐自然塾」を開き、後進たちの育成にも余念がない。
作り手が潤わなければ農業に未来はない、という経営センスのよさも貴重な資質だ。

chapter01

空色が清々しさの象徴なら、山下一穂さん(1950年生まれ)の畑の色は深く、濃く、豊かさの象徴といえる。高知市から50キロほど北上した北嶺とよばれる山間部に、山下さんは畑を持ち、有機野菜を作っている。
山下農園の野菜として知られ、東京や大阪の販売店からの需要も多く、通販でも人気という。 同時に、山下さんにはもうひとつ、特筆すべき活動がある。「有機のがっこう土佐自然塾」(以下土佐自然塾)と名付けた後輩育成の活動だ。 基本的に1年間のプログラムで、土づくりからはじまって、季節ごとの野菜の育てかたまでを実地で教育する。

「有機農業はもうからない、と言われつづけてきました。でも僕は、その逆、有機農業でもうけることが出来ると証明しているつもりです。そのノウハウを伝授したいのです。農薬を使わない有機農業は自然を守り、ひとびとの健康を守るために絶対必要。有機農業をみんながやるようになったら、田畑から日本は再生する、と僕は主張しています。そのために、もうかる有機農業のやりかたを、土佐自然塾に来てくれたひとたちに伝えようと思っています」
そう語る山下一穂さん。からだを壊したことをきっかけに、農薬を使わない家庭菜園を始め、それが発展して、40歳をすぎてから、山下農園へと発展する農業に従事するようになった。

農業は楽しくて楽しくてしようがない

chapter02

「土佐自然塾」の生徒は、年齢も出身地も幅広い。9期となる2014年度も10名の生徒が、朝から晩まで、山下さんと山下農園で働く経験ゆたかなお弟子さんの下、畑作業をする。 北海道出身もいれば沖縄出身も。20代と50代とが並んで土づくりに精を出している。 「僕のところでいろいろ学んで独立して農業を始めようというひともいれば、僕のやりかたに共鳴してくれて一緒に野菜づくりをしたいと言ってくれるひともいます。やる気のない子はいませんね。みんな真剣です」

山下さんの教えかたはていねいだ。畑のうね立てでは、60kgの鎮圧ローラーで表面を平らにする際、なでるように表面を確かめようと教える。
「表面をきれいに平らにしないと、播種(はしゅ=種まき)したときに深さがまちまちになって発芽率が悪くなるよ。それと鎮圧ローラーで適度に土を締めておくと、内部で毛管現象が起こり、水分が表層に移動して発芽にいい条件が整うよ」
にこにこしながら、塾生たちひとりひとりの顔をみて説明する。

「山下さんに興味をもったのは、新・農業人フェア(就農の支援などを中心とするセミナー)で講義を聴いてからです」塾生たちの指導にあたる、30代のお弟子さんが語る。
「山下さんはいつも“農業は楽しい”とにこにこしている。問題が起きても、それを解決するのが楽しい、と言うんです。それはおもしろい姿勢だなあと思いました。その問題解決のやりかたがロジカルなんです。それで僕らにとっても、一緒にやっていると、とても勉強になります」

有機野菜が売れれば、次世代が育つ

chapter03

「僕が農業を始めたいという子たちに言うのは、楽しめるかどうかが大事だということです。僕は畑に出ていると楽しくてしかたがない。野菜の育てかたから、どうやって害虫の対策をするか、収量を上げるか、利益を増やしていくか、いつもあれこれ考えて作業し、その結果が出るのを見るのが、楽しくて、楽しくて」

山下さんが手がける野菜は、おいしくて、きれいで、商品力がある。「そうでなければ有機農業に未来はない」と山下さんは言う。この考えは現実的で、それゆえ生徒たちから支持されているのだ。
「僕の野菜はおいしい」が山下さんの口癖。
「有機野菜を好む消費者は、僕の野菜だけを食べているわけではないでしょう。そのひとたちが“やっぱり山下さんの野菜はおいしい”と言ってくれています。なによりも客観的な証明ですよ」

「おいしい有機野菜は売れるから、農家がもうかり、そうすると次世代が育つ」
山下さんが好んで口にするロジックだ。
「農業は一時期の一世代が生活の糧を得るための職業ではないし、食料を求める消費者のためだけのものでもない。次の世代に延々と伝えていかなければならない共通の財産なんです」

山下さんは、自分の農業を「クリエイティブ」と表現する。そこには、たんなる野菜づくりを超えた目標も含まれる。 「視野を拡大すると、農薬や除草剤を使わないことで河川への汚染が防げるし、ひいては深刻化する海洋汚染の予防にもなる。これまで環境の汚染源だった農地が浄化源になります」

このような志を、塾生たちに、ことあるごとに説く。毎日、畑に出る前のミーティングで「日本の農業を変える」といったモットーを大声で唱える塾生たちの張りのある声には、なんと心地よい響きがあることか。

chapter04

「だんだん風向きがよくなってきているように思います」
東京を例にとっても、通販や都心部のスーパーマーケットからの引き合いが多くくるようになった。この流れのなかで、塾生たちを含めて、全国で後進たちが有機農業を手がけられるようにしたいというのが、山下さんの願いだ。

「自分が農業を始めたときは、資金を融資してくれる役所の窓口の対応は十分温かいとはいえなかったし、提供してもらえるノウハウも不足していた。しかしここにきて、地元の行政が、僕たちが専業として取り組んできた有機野菜づくりが収益を上げている事実に注目し、今後、有機農業を目指す農家を支援すると明言してくれたんだよね」

山下さんが「みんなに伝えたい」と思っているのは、たとえば土づくりのノウハウ。
「おいしい野菜づくりの原点は土づくり」
山下さんの畑では、地面がふかふかしている。指を射すと、まるでカステラに指をいれたように、気持ちよくすっと入っていく。
「こういう土だとおいしくて美しい野菜が作れます」
塾生にまず説く、山下さんの農業の原点だ。

「でも作るのは難しくない。上に生えた草を耕耘して土にすきこむだけ。適宜、必要な肥料を入れてやればいいんです。土中の微生物が活発に活動して、草を分解し、根の生育に良好な環境が整うんだよ。適度な団粒化でやわらかいし、内部では保水性と排水性が保たれるから、野菜の根はきれいに伸びる。根にストレスを与えない野菜づくりなんです。キュウリだってまっすぐで大きなものがなるよ」
これを聞いて、「目からうろこが落ちる思いだった」と、就農経験のある塾生がつぶやく。
周囲に雑草を生やしておくのも山下さんのやりかた。これで土の保水力が保たれるし、害虫の天敵のすみかにもなる。
「アマガエルがキャベツを食べにくる虫を退治してくれるし、ソラマメにたかるアブラムシは周囲の草のなかで生息しているテントウムシがみんな食べてくれます」
そんなことも、山下さんが次世代のために伝えたいことなのだ。

photo/Kentaro Kumon text/Fumio Ogawa

山下一穂(Yamashita Kazuho)

1950年、高知県高知市生まれ。学習塾経営などを経て、98年より本山町に移住して新規就農。有機農業に目覚めたきっかけは自身の体調不良の改善のため。山下農園を開き、2006年より高知県と地元NPOとの協働で人材育成のための「有機のがっこう土佐自然塾」(土佐町)を開き塾長を務める。
www.tosa-yuki.com

写真家の眼

BACK TO TOP