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Vol.3

革新者  石綿薫に学ぶ 農法の枠を超える学びを伝える。 [ 光 編 ]光、温度、水や風の順番で人為的に制御できない環境をいかに整えるかが栽培における優先ポイントになる。

石綿薫(Kaoru Ishiwata)

1971年茨城県生まれ。トマト等の育種を担当した種苗会社勤務を経て、2002年〜2014年(公財)自然農法国際研究開発センターにおいて、研究員として有機栽培向けの品種開発、農薬を使用しない病虫害防除の研究などを手掛ける。2015年、長野県松本市で就農。トマトを中心とした栽培に勤しむ傍ら、幅広い知識と独自の視点を兼ね備えた講演会を全国で行なっている。

「土が作物を育てるんですけど、作物は同時に土を育てるんです。」ー土が作物のポテンシャルを引き出し、育てた作物が今度は土を活性化していく。この循環の仕組みを紐解くべく、育土や間引き、さらには育種にまで及んだ講義の前半戦。後半は、石綿自身が、一農家として、日頃、駆使している技術なども盛り込む「栽培」にフォーカスした内容となった。最大のキーワードは「光」だ。

point01

 「栽培においていつも意識して欲しいのは、『今、作物にとって、この環境(自分の圃場)はどうなの?』ということなんです。そして、それは、光、温度、水、風、作物生理、管理履歴、土壌環境含む肥料分の順で考えてください。ついつい人間は肥料で何とかしたがるんですが、肥料は優先順では1番最後です。」
 作物は光合成をすることで育つ。農家なら当然誰もが知っていることではあるが、光合成の仕組みと影響までしっかり把握している人はどれくらいいるだろう。
 「作物を見る時、まず、光合成はできているのかを見てください。葉っぱは十分大きく開いているか。上を向いてシャキッとしているか。光の量が充分なのか。」
 これくらいなら分かる。だが、光合成に適した光を与えているかと聞かれて、即答できるだろうか。

 「光といっても、人間の目には見えないのですが、青色光と赤色光という波長の異なる光があります。青い光が多いと葉は厚くなって、草丈は抑制気味になる。赤い光が多いと葉は薄くなって背丈は上に伸びよう伸びようとします。芽が出た植物が子葉をぱかっと開くとき、植物は青い光を求めています。
 例えば、ハウスのビニールが汚れてくる。緑の藻のようなものが覆っているとします。そうすると、植物がハウスの上に生えているということになるんです。それを通過してくる光というのは、その藻に光合成に必要な青の光と赤の光を抜き取られているんです。人間からするとまだ明るいからと思うんだけど、植物にしてみると葉っぱの陰で育ててられているという状況になって、徒長しやすくなるという現象が起こるんです。」
 光合成とは、植物が光を利用して二酸化炭素と水から炭水化物を合成することである。だが、なぜ光が、光合成が最も重要なのか。光合成の仕組みを語ることで、石綿はその重要性を説いた。

 「光合成の仕組みというのは、ダイレクトな反応ではないんです。光のエネルギーを葉緑素の中心にあるマグネシウムに効率的に虫眼鏡のような感じで集中的に浴びせることで、水を電気分解する。そして、水素と電子のエネルギーを取り出す。酸素はいらなくなるので捨てます。これが光のエネルギーを取り出す作用。
 この作用を使って、二酸化炭素に水素をくっつけてあげてブドウ糖を作り出すというのが光合成の本質です。このブドウ糖を原料にして、植物はあらゆる有機化合物を作り出すことができる。細胞も作ります。」
 「細胞はタンパク質からできているのでは?」教科書仕込みの知識の断片がよぎり、疑問が頭をもたげた。

point02

 「細胞の構造と機能を支えているのはタンパク質です。タンパク質はアミノ酸が連なってできていますが、そのタンパク質とは、アミノ酸がペプチドを経て、それが連なることでタンパク質になるんですね。という事はブドウ糖の次に作らなければいけないのはアミノ酸ということになります。」
 植物の大半の仕事は、ブドウ糖とアミノ酸作りと石綿は言う。
 だが、アミノ酸を作るには、光合成で使う二酸化炭素と水だけでは駄目で、根から吸い上げた窒素が重要になる。だから、土の中からどういう風に窒素が供給されるかが大事になると説明が続き、石綿が、前半の講義で根の生態について講義したことが繋がった。栽培における多層なレイヤーが徐々に一つに重なり合っていくような感覚になる。「学者の研究聞いてるみたいですよね。」と、前半でこそっと話していた参加者も、石綿のひとつなぎとなって農を解き明かしていく講義の展開に前のめりになっている。
 「ただ、最悪なのは、作ったアミノ酸がその状態のままでいること。これは格好の害虫、特にアブラムシたちの標的になります。なので、速やかにアミノ酸をタンパク質をはじめとする物質に変換することが大事なんです。
健康に育っている野菜を虫があまり食べない状態というのは、土中に窒素がないのではなく、吸った窒素が素早く細胞に組み立てられているということなんです。」

 さて、光合成の仕組みと影響についての知識が共有できたと思うので、ここからは、石綿自身の実際のトマト栽培での作業と重ね合わせながら講義内容を紐解いていこう。まずは、光合成についてだ。
 「トマトはある程度育ってくると下葉を掻き取る。よく『何枚ぐらい葉っぱを取っていいですか?』と聞かれますが、目安としては、光合成がちゃんとできる葉っぱはトマトだったら15枚ぐらい欲しいと思います。ただ、木がバテて葉っぱがクルクルっと巻いてきちゃうような葉っぱは光合成ができなくなるので落としますが、無闇に下の葉を落とすと根を傷つけるので気をつけてください。
しっかり光合成ができているかどうかは、葉の色で判断できます。しっかり光合成ができていると、葉の色は冴えたグリーンになる。そして、朝、淡い色だったものが、光合成をしっかりできていると夕方には濃くなって、また翌朝には淡くなる。この繰り返しができているようなら光合成がしっかりできているということになります。」
 講義は、次なる優先課題である温度に移っていく。だが、そこでも石綿は言う。
 「管理をしていく上で温度とどう付き合って行けばいいか。そのポイントは光の条件に合わせるということなんです。」

point03

 「トマトの芽出しをするときは、大体17,8度で管理するんですが、曇天が3日も続けば3日目にはハウスの温度を8度まで下げちゃいます。というのも、晴れているときはしっかり光合成もできているので、管理温度が高めのほうがいいんですけど、ただ春先に育苗している時などはまだまだ寒い時期です。となると、曇天も多いですよね。ただ、寒いからといってせめて温度だけでもと温度をあげてしまうと、トマトも『働かなきゃいけない』と思って動いてしまう。結果、徒長しちゃうんです。だから寒いときは管理温度も下げてください。」
 ここで、一旦、休憩となったのだが、すかさず参加者の一人が石綿のもとへ質問に駆け寄る。

 「トマトは1年中やってるんですか?」
 「うん。やってますよ。収穫期間でいうと、5月25日ぐらいから12月20日ぐらいまで。植え付けでいうと、3月7日ぐらいから植え付けスタート。いちばん遅いのは7月7日頃かな。」
 「苗はいつ頃から?」
 「苗は12月20日過ぎぐらいに種まきをしてる。」
 「どういうサイクルなんですか?」
 「春から収穫するやつは7月で終わりにしちゃう。長く引っ張るとやっぱり無理が来るから。でも苗が若ければ暑くても越せるんだよね。だから7月に定植したやつはなんともないの。若いから。7月に植えたやつは9月に1回目のピークが来て、10月中頃から2回目のピークがくるかな。
9月になると普通にやってるトマトは大体終わっちゃうけど、ミニの場合はいつ着果したやつを、いつ収穫しているのかをちゃんとチェックしておくといいよね。そうすればこの時期はあんまり売れないっていう時期は株を短く切っちゃうの。それでスタミナを後ろへ後ろへ送っていけば、市場でトマトが少なくなった時に出せるよね。」

より具体的な質問に対しては、ピンポイントで明快な答えを授ける。このこと自体も、石綿が研究者と農家というふたつの側面を持っているからこそ出来ることであるのだが、この何気ない会話の中に石綿の真髄が潜んでいる。「いつ着果して、いつ収穫したかをチェックしておく。」チェックするとは、つまり、常に仮説と検証を繰り返している石綿の姿勢そのものだからだ。

point04

 石綿の仮説と検証が新たな技術を生んだエピソードを紹介する。
 ある時、石綿はキュウリを直播きではなく、育苗で栽培できないかと考えた。だが、キュウリは直根が伸びる性質。石綿の圃場がある松本市の気候を考えても、遅い生長で早い発育(コンパクトで若々しいが葉数は出ている状態)を狙いたい。そのためには、下の節管(せっかん)を詰まり気味にして、早く花芽がつきやすいような体質にしたい。イメージしたのは、トウモロコシのようなひげ根が茂ったような根の形。
 「その時に考え付いたんですが、稲の育苗トレイって浅いですよね。あれに播種をしたんです。あれなら、キュウリの直根もすぐにトレイの底に当たる。そうすると、キュウリは『なんとかこの固い地面を突き破ろう』とする。そうすると、直根と同じくらいの大きさの側根を伸ばして、最終的にはどれが元の直根だか分からないくらい根が出るようになる。そこをすかさず鉢上げしてやるんです。」
 キュウリの性質を逆手に取って、自らの栽培技術に生かす。一体、どれほどのデータや知見、技術が詰まっているのか。当初、9時間半の講義が長すぎると感じていたが、まだまだほんの入り口程度しか見せてもらっていないように感じる。今回の講義も四国の農家が何回にもわたって教えを請いたいとお願いした気持ちが今となってはよく分かる。

 話を講義に戻す。次は水だ。石綿は灌水の見極めをトマトの葉を見て決める。
 「トマトに植え付けしてからしばらくの間灌水しないんですけど、始めるときの目安は、まず5分間だけちょっとするんです。それで翌日の朝、葉露(はつゆ)が付いているかを見る。」
 葉露とは、文字通り、葉についた水の露のこと。
 葉露がついていなければ、次に6分とか1分ずつ灌水の時間を増やしてきます。そうして葉露が付くようになったら、ようやく水が行き渡ったんだなと分かるんです。」
 この仕組みをさらに細かく説明する。
 「育苗中は、晴れが続いていてお日様たっぷりのときは、温度管理も高めるので、午前中に灌水を多めにする。逆に曇天の時は管理温度も低めになりますから灌水は低めにしておく。

 水は、葉っぱから蒸散する。すると、水がない状態になる。すると植物の中で水を引き上げようとする力が発生する。水分が蒸発することによって引っ張り上げようとする、この力は、光合成に比例します。つまり、晴天の時は蒸散がどんどん水を引き上げる。
 もう一つの力は根圧。これは根が意識して水を上に送らなければいけない。だから、普段から水をたっぷりあげちゃっていると自分から水を上に押し上げるということをあまりやらなくなってしまう。すると曇天が続いたような光合成ができない日が続くと水の移動が上がらなくなる。そんな時にいきなり晴天が強くなると一気にしおれます。葉っぱの温度だけが上がりすぎたりしてもたなくなってしまうんです。
 だから、普段から少なめの水分を吸収する。頑張って水を上に押し上げていくような訓練を植物にしておいてあげると、常に根圧の高い植物苗を作ることができる。
 葉と根のふたつが作用して植物は水分を補給しているんです。」
 「作物の声を聞く」と、農家が口にすることがある。だが、作物の声を聞くには、作物がどのような性質で、どのように生きているのかつぶさに知らなければ本当の声は聞こえない。時には、あえてセオリーを無視したり、無謀とも思えるような仮説と検証を重ねることで、石綿には誰にも聞くことができない、作物の本当の声が聞こえているのだろう。

1泊2日の研修を通じ、何を気付き、何を学んだのか。
参加者たちの生の声を届けるコラム

  • 就農以前にも石綿先生のお話を伺っていたのですが、実際に就農して圃場に立つようになって、やっとひとつずつ、ふたつずつ畑と結びついて実感できるようになったんです。前回よりも様々な詳細なデータも教えていただけたので、畑に生かしていきたいです。

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  • 台風で弱った作物をどう回復させるか。1月に上勝で講演をしていただいた時にも葉面散布のお話があったのですが、今回はさらに踏み込んだ内容となっていてヒントをいただけました。地元の阿波番茶も使ったやり方で実践したいと思います。

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  • 土壌改良を続けているのですが、中々思うような状態にならない原因を知りたくて参加しましたが、講義を終えて、自分の圃場には有機物が不足していると分かりました。これからは、施肥に頼らないやり方をしっかりと実践していきたいです。

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  • 今回一番の学びは、まず緩衝能を測定し、土壌改良をした方がいいと気づけたことでした。土壌診断はしていたんですけど、その結果を継続的に見ていなかったんです。石綿先生の理論や知識を伺って、もう一度根本的なところから改めて圃場と向き合おうと思います。

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  • 僕とは基本的には真逆の観点からアプローチされている話だったので興味深いお話がいくつも聞けました。僕が目指しているところは、光と土と種があれば持続できる農業ですが、広く簡単に誰でもできる農業という点では素晴らしい技術だと思いました。

農家同士が相手の農業を否定するのが僕には分からないんです。そういう意味では、今回は地元の農家さんも多数参加されていて、有機じゃなきゃいけないと凝り固まった人たちではなかったので、お互いをリスペクトしあって学びあえたいい時間でした。どんな農業だって自然と向き合っている。そういう意味では、みんな地球農法。多様な農業が地球を作っているんだから、こういう機会から、みんなで協力しあえる関係が生まれて行って欲しいなと思っています。

photo/Misaki Yanagihara text/Takashi Ogura

革新者 石綿薫に学ぶ 農法の枠を超える学びを伝える。

[土編]畑の特徴、品種、作型選び、育苗、栽培管理。
それがひとつなぎになったものを農法という。

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