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Vol.3

革新者  石綿薫に学ぶ 農法の枠を超える学びを伝える。 [ 土 編 ]畑の特徴、品種、作型選び、育苗、栽培管理。それがひとつなぎになったものを農法という。

石綿薫(Kaoru Ishiwata)

1971年茨城県生まれ。トマト等の育種を担当した種苗会社勤務を経て、2002年〜2014年(公財)自然農法国際研究開発センターにおいて、研究員として有機栽培向けの品種開発、農薬を使用しない病虫害防除の研究などを手掛ける。2015年、長野県松本市で就農。トマトを中心とした栽培に勤しむ傍ら、幅広い知識と独自の視点を兼ね備えた講演会を全国で行なっている。

研究者と農家。石綿にはふたつの顔がある。かつて在籍していた自然農法国際研究開発センターにおいて積み重ねてきた膨大な研究とデータの蓄積、そこから導き出された様々な理論や知見。そして、現在の、長野県松本市でトマトをメインに栽培する農家として、日々現場で研鑽する技術。研究者と農家、理論と実践が重なり合う石綿の講義は、既存の農法の枠を超えた革新的なものだ。石綿は自ら体現者として全国を講義しながら、イノベーションの種を蒔いているのだ。

point01

 事前に届いた講義スケジュールを見ていたので、肚は括っていたつもりだった。石綿による1泊2日の「土づくり・育土と微生物の農業利用」と題された講義日程には、初日の畑での実習以外、合計なんと9時間半にも及ぶ講義がみっしりと組まれていたからだ。これは、かなり「お勉強」な時間になるなと考えていた。
 ところが、講義内容はこちらの想像を軽く超えていた。それは、講義開始に石綿が放った言葉に集約される。
 「例えばCECという言葉があるんですが、『CECウチの畑20くらいある』という話をすると、『じゃあ、元肥が結構効くんだね』というのが、農家同士で普通に共通言語として話せるようになるんですが、CECという概念が共通の認識になっていなかったら、まるで技術の話が通じないということになります。でも、裏を返せば、同じ技術の根幹を持っていれば農法の枠を越えて、みんなで勉強できると気が付いたんです。」
 CECとは、圃場の土の保肥力を表す数値であるが、このように同じ技術の根幹を持つこと、そのために繰り広げられた講義は、ただの言葉の羅列ではなかった。石綿自身が研究者として培ってきた膨大な知見や検証実験のデータをフルに駆使することで、ロジックと実践~技術の確立までが数珠つなぎとなった、圧倒的な情報量を参加者全員にもたらしたのだった。今回は、僅かな時間だった畑での実習と石綿自身の農家としてのエピソードをベースに、そこに今回の講義の内容を重ね合わせていこうと思う。

 今回の講義を企画したのは、SHARE THE LOVE for JAPANに参加し四国で農業を営むメンバー3人。第2回目の開催となった今回は、高知在住の北川美帆の圃場で行われた。故・山下一穂さんが主宰した「有機のがっこう 土佐自然塾」の卒業生で、2015年に就農した。
 この日は、折しも激しい台風に見舞われた直後の生姜畑の見学から講義は始まった。水没こそしなかったものの、かなりの雨量にやられた小石が多く混ざる圃場だった。雨で生姜はやられていないか、そもそも小石だけでなくトラクターの歯を折るほどの大きな石がゴロゴロ出てくるこの土質で畑を続けていいのか。悩む北川に、今年の生姜育成に向けて畑に投入してきた資材の履歴を聴くと、石綿はゆっくりと圃場を歩き始めた。
 他の参加者が様々な意見や「こうしたらいい」と技術的なアドバイスを矢継ぎ早にし始める中、石綿の姿はちょっと浮いていた。だが、これこそが、あらゆる農家がまずすべきこと、その1だったのである。
 それは、自分の畑を眺めることと、知ることなのである。

point02

 講義において、石綿が、まず農家がすべきこととしてあげたのが
 「新しい畑を借りる時などは、まず、全体を眺めるんです。そして、作物や緑肥の育ち方を見る。例えば、このあたりはいつも背が低くなるなぁとか。必ず木が細くなってしまう場所だなとか、育ちかたの斑をみます。傾斜、水はけ、雑草の種類、こういったものを把握しておきます。」ということだったのだ。つまり、石綿はまず生姜の圃場をしっかりと眺めていたのだ。そして、戻ってくると、北川に話し始める。
 「茎はちゃんと初期はできていたと思う。芋(=食用部)ができ始めてからは、吸った養分は全部芋のほうにいってるから上(=葉)が茂らない。だから、木の小ささの割には芋がでかいはず。こういう育ちになったときのポイントっていうのは、上ができないから草が元気になる。雑草が。だから、雑草の色と生姜の色を比べると雑草のほうが色がいいじゃん。だから、この状態で下手に追肥すると草だけが元気になって、生姜の色は回復しないと思う。」
 この言葉を聞いた時には、石綿には土中が見えるのかと驚いたのだが、「栽培を通して畑が育つ~育土とは」の項の講義において、作物を育てる畑と雑草が育つ畑の違いに軽く触れた時に疑問は氷解した。

 「作物を育てる力が強い土というのは、土の中に栄養があるということ。つまり、一回、無機化したものが再度有機化しながらぐるぐる回っている状態。これが栄養腐植が多い状態。これって、土の中の微生物という観点からすると、畑に戻していく有機物を分解して無機化させたり再有機化させたりする微生物を選んで培養して、そこに住まわせているという状況ともいえるんです。例えば毎年キャベツを作っているというような循環を作っていくと、その残渣が土に戻った時に、それを食べられる微生物たちが住んでいるので、常に有機物を分解して無機化できるような状況だと思います。そうした栽培を繰り返すことで、年々この働きも増強されていくんですね。」
 この話を聞きながら、生姜畑でその後に石綿が話していたことも思い出した。
 「バガス(サトウキビを絞った後の残渣)のマルチしてるところは雑草の色が良くて、黒や白マルチしてるところでは雑草の色がちょっと弱い。バガスは分解過程で窒素を生むから、雑草がそれを吸って生育してる。だけど、あっちのマルチの方は雑草が小さい。生姜が雑草を抑えてる。雑草が元気になるって事は、生姜の根っこが今、養分を取っているところにまで雑草の根っこに侵入されてしまっているってことだから、この畑ではマルチ栽培の方が合っているってことだね。」
 つまり、マルチをした畝は生姜が雑草を抑え込んでいる。ということは、生姜を育てる微生物たちが多数住むことになり、栄養が生姜に供給されいる。一方で、バガスを敷いた畝は、生姜が雑草に負けてしまっているので、そこには、バガスが分解して生み出す窒素をそのまま雑草の発育にもたらす微生物たちが住んでいるということになる。

point03

 作物と根の関係についても、こんな質問から始まる講義がなされた。
 「作物の育て方と、土からの養分供給量について、ある実験をしました。種まきから約1ヶ月後のニンジンの間引き実験です。いきなり、6~8cmの間隔で間引きしたものと、最初、1~2cm、その後に4~6cmとして、最終的に8~10cmにした2通りの栽培ではどちらが良い生育をしたと思いますか?」
 上の質問の答えは、適正に間引きしていった方が大きなニンジンに育っていたというものだったのだが、さて、ここからが石綿の本領発揮だ。
 「適正に間引きをするとこれだけ太るのに、いきなり離してしまうとニンジン自体も育ちません。畑には同じ量の堆肥が入っています。という事は養分供給量は同じだから、ニンジンが少ないほうが一本あたりの養分供給量が多くなるんじゃないかと思うのですが、実はそうじゃないんですね。集団が大きいほど養分供給は多かった。つまり、ニンジンが養分をくれよと土に働きかける声が大きいと。だから、養分供給は土と肥料が決めているのではなくて、ニンジン自身が決めているということになる。土は単なる肥料の入れ物ではないんです。作物の求めに対応して働いているということになるんです。」
 間引きとは、作物が土に働きかける、その働きかけ方を調整する技術だと石綿はいう。
 「一般的には、土に肥料を入れてそれを作物に吸わせるという考え方をしますが、土の中の肥料分っていうのは、作物に吸われるまでじっと待っているのかというとそうじゃないんです。」
 ここからの続きは、石綿の語り口も含めて、講義の内容をそのままお伝えしよう。

 「土の中の栄養分、特に窒素分はずっと留まっているのではなくて常に生成変化している。土の中のダイナミックに動いているものを、作物の根はその都度その都度いろんな工夫をして吸収をしているんです。
作物と土の接点は根っこです。根の周りで何が起きているか。根の周りの小さな生態系を考えてみましょう。植物の根毛は1番細い部分でいうと、人間の髪の毛よりも若干細いぐらい。根っこからは、常に新鮮な表皮が滑落して行くんですけど、そういったところにバクテリアが繁殖する。バクテリアがいるとその周りにアメーバやセンチュウとかが食べにくる。土壌粒子があって、鉱物があって、バクテリアがいて、糸状菌がいて原生生物がいて、そこに作物の根っこが伸びてくると。作物の根っこはクエン酸などの分泌液の酸を出しています。
作物は根の組織の周りにいるバクテリアたちや糸状菌たちにアウトソーシングして表皮やクエン酸を無機化してもらって、また養分としてもう一度回収するってことをやるわけですね。

植物は光合成で養分やブドウ糖からアミノ酸を作ったりしてその10パーセントぐらいは、根っこから外に放出して、土の中に与えているということになります。作物は養分を一方的に吸収するのではなくて、常に与えながら吸収をしている。根の量が増えると分泌液の量が増えて溶出される養分量も増えます。そうすると放出される有機物も増えて、根圏バイオマスがさらに活性化してリターンも多くなる。
つまり、作物の集団が大きいほど根域が広がって、その分土壌有機物圏を絡め取る力が増すので、ますます養分を取り出せることになる。」
 単に、根の周りには微生物がたくさんいるよとか、根を増やせば生育にいいよとだけいうのではなく、なぜ、こうするといいのかを徹底的に理論と実証実験のデータから伝える。冒頭で述べた、ロジックと実践~技術の確立までが数珠つなぎとなった、圧倒的な情報量とはこのことをさしていたのだ。

point04

 話を北川の生姜畑に戻す。
 「こんな石が多い圃場で大丈夫でしょうか?」と北川が質問すると、石綿は即座に
 「生姜がそんなに困っているように見えない。」と言うと、こう続けた。
 「固い土の方が、物理的な刺激もあるからグッとまとまるからボリューム感でるよ。石もミネラルの供給源にもなるし。」これを聞いた時、北川が嬉しそうな表情に和らいだ。
 石綿の視点は、常に、畑や作物の立場に立ったものだ。決して、人間がいかに思い通りに作物を育てられるようになるかというような小手先の技術ではない。だから、どんな畑にも、どんな不出来な(と人間が勝手に判断する)作物に対しても視点が優しい。
 「土が作物を育てるんですけど、作物は同時に土を育てる。今このときも、作物は土を作り続けているんです。」これが石綿が伝えたい最大のメッセージだったように思う。

 そのために、畑での毎年の土壌診断の必要性を説き、腐植に富んだ土作りのために緑肥の栽培も推奨した。もちろん、日本全土に広がる黒ボク土や火山灰などの土壌性質などについても詳細に講義をした。だが、それらの知識も、あくまでも作物の目線で捉えて、育てるための情報に過ぎない。
 ブロッコリーを例に出した講義でも、ブロッコリーの祖先が、海辺で草があまり生えないような土地で育ったケールであり、そこからカリフラワーと交配することで、少しだけ生育が揃えられるようになった歴史を紐解きながら
 「こういったことを知っておくと、ブロッコリーの育ち方の癖がひとつなぎの情報として整理できるようになる。どの作物もマニュアル通りに育てればいいというものではないんです。自分の畑の特徴と、品種、作型選び、育苗、栽培管理を結びつける。それがひとつなぎになったものを農法というんです。だから、人から聞いた栽植密度のとおりにやることが栽培ではなくて、自分の畑ではどれぐらいの密度で植え付けるのが最適なのかを考える。そうして自分の技術を突き詰めていく。こうやって農法を組み立てていくことが大事です。つまり、畑の数だけ農法があるんです。」

 北川は今後もあの圃場で生姜を育てるのだろうか。きっと迷っているだろう。そう考えていると、こちらの思いを見透かしたように石綿が言った。
 「もし、その畑で最高のパフォーマンスを示す品種を見出せたら、その環境に適した遺伝子があるということなので、そこで種取りをして育種ができるようになります。そうすれば、畑の土も育土が進むし、その種を残していくことでそこで作りやすい種が育つ。これが在来種になっていく。
良い品種を見つけるという事は、それだけ自分の畑をその種が耕してくれると考えると、適品種を見つけるということも土づくりの一環なんです。そういうふうに種と土が結びついているというふうに理解するといいのかなと思います。本来、育土と育種は農業の両輪だったんです。」

次回は、作物の生理生態から土壌生態系を使いこなす根張りを引き出すポイントなど具体的な技術についてまでもお伝えしていく。

photo/Misaki Yanagihara text/Takashi Ogura

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