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Vol.2

革新者  村田光貴に学ぶ 代掻きは除草。草に負けない米作り。

村田光貴(Kouki Murata)

1977年東京都生まれ。岩手県陸前高田でリンゴや野菜農家として就農。2011年東日本大震災をきっかけに大分県国東市に移住。そこから、夫婦二人でゼロからのお米作りを始める。米と温泉水だけで作り上げたお米の麺やシリアル、マカロニなど多様な加工品も自ら企画・開発を手がけている。

米作りにおいて、誰もが苦労するのが雑草との闘いではないだろうか。刈っても抜いても後から後から生え続けてくる草との果てしない闘い。真夏の炎天下での草抜きともなれば地獄のような作業である。ところが、「ウチの田んぼの除草は田植えから20日くらいで終わらせてます」と村田は言い切る。夫婦二人で12haもの田んぼを回す、肥料も農薬も使わない米作りの秘訣とは。

point01

 指定された集合場所は、一人の米農家が管理するにはあまりに大きな倉庫だった。奈良、福岡、愛媛、大分からやってきた4名の開拓者に加え、この研修を受けに集まった地元や佐賀からやってきた米農家、さらには隣町の元農協職員や農機具メーカーに勤務していた方々などを前にして村田が口を開く。
 「この倉庫、夫婦二人の米農家にしては大き過ぎると思いますよね。でも、僕はあえてこの大きさにしたんです」
 東日本大震災以前、岩手県で果樹農家をしていた村田は、大分・国東に移住してから米作りを始めた。夫婦二人での米作り。2haの田んぼを借り受けたものの、最初は何が必要なのかすら分からなかったという。それでも、「この倉庫もそうですが、トラクターにしても保冷庫にしても僕はいつも『どういう農家になりたいか』をイメージして設備投資しているんです」と話す。
 その言葉を聞いて参加者たちの顔が引き締まった。
 「どういう農家になりたいか」その表情からは、米作りの技術云々の前に、自分たちはそこまで具体的なビジョンを描いて田んぼに立っているのだろうかと考えているようにも見える。

 そして、村田が倉庫の扉を開けるとどよめきが起きた。巨大な乾燥機や保冷庫、乾燥機や色彩選別機などがズラリと並んでいたからだ。
 「米作りを始めて8年。今は12haまで田んぼを増やしました。一枚づつの田んぼが小さいから、全部で100枚以上の田んぼをやっていますが、ようやく自分の「どういう農家になりたいか」というイメージに近づいてきたと思ってます」
 夫婦二人だけ。8年間で2haから12haまで田んぼを広げる。この面積だけでも相当な労力がかかるはずなのに、しかも、農薬も肥料も使わない自然栽培での米作り。その難しさを知っている参加者たちだからこそ、量と質のどちらも追求している村田が「どんな農家になりたいか」とイメージしているのか伝わり始めたようにみえた。

 ただ、これだけの設備を備えるには相当な投資になるはずだ。早速、参加者から質問が飛ぶ。
「こんな大きな倉庫建てるには、相当な金額がかかったんじゃないですか」
 「確かに全部を業者さんに任せたらすごい金額になると思います。でも、この倉庫にしても、保冷庫にしても部材だけ取り寄せて、組み立てや施工は全部自分たちでやったので(笑)、かなり出費は抑えられました」(村田)
 笑い飛ばすようして話された言葉だったが、この研修を通じて一貫していた、村田の「出来ることはなんでも自分でやってみる」精神が最初に伝えられた瞬間だった。前に書いたように、村田は国東に移住してから米作りを始めた。とはいえ、米作りを教えてくれる指導者もいなければ、教科書のようなマニュアルもなかった。足りないものだらけの中で、それでも「こんな農家になりたいんだ」という思いだけを糧に必死にトライ&エラーを重ねながら積み上げてきた創意工夫の塊のような研修が始まった。

point02

 研修会場に着いて、まず参加者が一同に驚いたのは、村田が4月から田植えをしていると言った時だった。
 「この地域では6月中旬前後に田植えが集中します。僕は地域の外から来た人間なので、他の人が水を使わない時に田植えをすることにしたんです。4月の初旬に田植えをして、4月中に除草をして終わる第1パートがあって、5月前半に田植えをして、5月中に除草を終わらせるパートがもうひとつあるって感じです」
 こんな早い時期に田植えができるのは、村田の育てるお米に理由がある。
 「ウチではササニシキやササシグレを育てています。品種改良され過ぎていない、アミロースが高いお米ですね。というのも、最近お米アレルギーの人が増えています。僕自身ずっとひどいアトピーに悩まされていて、食べ物ですごく体調が変わったので、お米アレルギーの人でも安心して食べられるお米を作っています」(村田)
 これらの米は感温性といって、積算温度によって実りをもたらす品種なので、4月から植え始めることで、冷たい空気にも触れ初期生育が抑えられて、かえってじっくり時間をかけて分蘖(ぶんけつ)し、たくさん穫れるようになるという。
 田植えが早いということは、その分育苗の時期も前倒しになる。そのために、育苗もハウスでしている。
 「箱苗ではなく、ポットで育苗しています。積算温度で収穫が決まるとすると、稚苗の箱苗ではなく、大きく育てた成苗でお米が植えられるので、結果収量も上がるんです」
 植え付けにもポイントがある。それは、できるだけ浅く植えることだ。
 「ナス科やマメ科の植物は土に触れたところから根を生やして栄養を吸収できるんですが、イネ科の植物は土に深く植えても根っこの位置は決まっていますし、その根からしか栄養を吸収できません。なのでできるだけ空気を吸わせてあげるために水面近くに置いてあげる。苗の時点で分蘖が始まっていてそれを地面の上に乗っけてあげるっていうようなイメージで田植えをしています」
 じっと最前列で聞いていた参加者が口を開いた。
 「本当に(肥料や農薬を)何も入れないの?」まだ自然栽培で米を作ることに半信半疑なようだ。
 「何も入れないです。米って肥料は要らないと思います。アメリカセンダンソウって草わかりますか?よく水路に生えてるやつです。あれって、土がなくても水路にへばりついてますよね。という事は、土から栄養取ってるんじゃないんですよ。水から栄養取っているんですよ。稲も同じだと思うんです。

 例えば、同じ稲を陸稲で育てるとしたら連作障害が出ますよね。だけど、水稲でやると連作障害でないですよね。だから、水田の水というのはすごくて。水があるからこそのことで。それぐらい水を張るということがすごいことだと思うんです」
 水から栄養を取る。初めて聞く言葉に驚いた参加者たちは次々と質問を重ねていく。
 「農薬使わないで、病虫害はどう対策しているんですか」
 「それが、8年目になりますが、ウンカによる食害、いもち病や紋枯病とか病虫害の被害が一回もないから、分からないんですよ」
 さっきの驚きが感嘆に変わった。これだけの面積を手がけていながら、一度も病虫害の経験がないという。一体、村田の田んぼとはどんな田んぼなのだろうか?その思いがそのままシンプルな質問になった。
 「村田さんの田んぼって、どんな田んぼなんですか?」
 村田は即答した。
 「田植えする前に未分解の有機物を残さない田んぼです」

point03

 村田は、田んぼの草対策も兼ねて米と麦や豆を輪作している。田んぼと畑を2年づつ入れ替えているのだが、田んぼでも畑でも一番のポイントは、作付け前に未分解の有機物を残さないことだという。
 「未分解の有機物が畑に残っていると、好気性の微生物の場合は窒素飢餓を越して生育が悪くなりますし、嫌気性の微生物が有機物を分解すると土や水の中の酸素を奪ってしまうんです。酸素が残らなくなるってことは、コナギっていう雑草があるんですけど、あの草は無酸素状態で発芽条件がすごく良くなるんです。だから、未分解の有機物がいっぱい残っている田んぼにはコナギがたくさん生えてます」
 未分解の有機物が残っていない田んぼでは、土が発酵して温まるともいう。

 「田んぼが腐敗しているのか、発酵しているのかを知りたければ、田んぼの中を裸足で歩いてみてください。未分解の有機物が残っている田んぼは、ガスが湧いたりとか、歩くと土がすごく冷たいんですよ。逆に、発酵している田んぼは水もあったかいし土もあったかいんです」
 もうひとつ、有機物の分解を見極めるポイントが、田んぼに出てくる藻だともいう。
 「アオミドロという藻は、土が冷たいところにしか生えません。逆に、サヤミドロという針金のような線状の藻や、網状のアミミドロが生えるところというのは、ガスが湧かなくて、水と土が温かいところにしか出ない藻なんです」
 藻も植物なので、光合成をして酸素を供給してくれる上に、サヤミドロは窒素固定をしてくれ、アミミドロは田んぼを遮光し、草が生えにくい環境作りまでしてくれる。そして、未分解の有機物を綺麗に取り除いた田んぼは土の表面もきれいだという。
 「きれいにするっていうのは、有機物を出すということです。代掻きしたときとかに浮いてくるじゃないですか。うちではあれを全部熊手みたいなものであげちゃうんです。1回全部きれいにしてやろうと思って、2ヶ月ぐらいかけて9回ぐらい代掻きしたことがあったんですよ。そうすると田んぼの土どうなると思います?」

 田植えまでに9回も代掻きしたことがある参加者は誰もいない。村田の「出来ることはなんでも自分でやってみる」精神の本領発揮だ。
 「さらさらになるんです。トラクターに土って乗るじゃないですか。そういうことがなくなるんですよ。土が洗われてきれいになって、灰汁の取れたスープみたいなるんですよ。代掻きしても水が濁らない。そこまでできると、その田んぼで10俵取れるんです」
 さらに村田には理想とする田んぼには条件がある。30cm以上の深水が出来、水持ちが良く、均平が取れた高低差の無い田んぼだという。
 「除草で大事なのが、深水ができるかどうかってことなんです。イネ科の植物は水の中に100%入っているときは弱い。ただ、5ミリでも水面に出ると一気に大きくなる。だから、ヒエとかイネ科の草は深水にしておけば簡単に取れるんです」
 除草の話になると、それまで以上に参加者全員が前のめりになった。

point04

 「まず、除草についてお話しする前に、これをしたから草が生えなくなるってことはないってことをお伝えします。そもそも雑草と言われる草も、土を守るために生えてきているわけです。その中で自分の作物をいかに優位に育てるか。そのために他の草をどう抑制するか。それが僕の除草に対するイメージなんです」
 村田が一枚の写真を見せる。田植機を改造し、後部に長い単管パイプが二本平行に取り付けられていて、そのパイプの下には無数のチェーンがぶら下がっている。
 「なんとか除草の労力を減らせないかと試行錯誤して作ったのがこれです。これを田んぼで引っ張り回すとチェーンが縦横に動いて草を取ってくれるんです」
 原理としては実にシンプルだ。だが、この形に至るまで、就農当初は夫婦で手取で除草もしていた。これではとてもじゃないが面積は広げられないと考え付いたのが、軽量の塩ビ管にチェーンをつけて人力で田んぼの上を引いていくことだった。すると、格段に除草の手間は減った。もっと出来るんじゃないかとアイデアを試しながら作ったのが、このオリジナルのチェーン除草機なのだ。

 「僕が1番のポイントに置いているのが、1回目の除草です。よく、『田植え後何日めで除草したんです』って言われる方が多いんですが、田植え後何日ではなくて、最後の代掻きから何日で除草したかっていうのが1番重要になります。代掻きって最も除草効果が高いので、最後の代掻きの翌日に田植えをして、なるべく早いうちに1回目の除草作業をするのが最も効果が高いと考えています。」
 「水生の草の多くは、種としては水に沈むが、田んぼに水を張って発芽条件が揃うと、芽より先に白い髭のような根を出すんです。そのタイミングで土を動かすと、沈んでいるはずの種は水に浮くんです。これを僕は『命の動くタイミング』と言っています。」
 「そのタイミングでチェーンを入れて土を動かすと、目に見えないような白い根があちこちに浮いてくる。その根が土を掴むと、芽を出して土を動かしてももう取れなくなります。だいたいここでうちの除草は終わっているので、田んぼに草が見えたら除草は失敗したと思っています。
チェーンを入れるタイミングは、田植え後2、3日中に1回目、そのあとは1週間ほどの間に2回目、その後10日から14日ほど置いた後にで3回目をやって終わりです。僕にとって、代掻きは除草なんです」

 田植え機の具体的な改造方法などまで、すぐに実戦で活用できる詳細な質問にも全て村田は答え、最後に言った。
 「ウチの農業って、種や肥料や農薬を買う経費はかからないし、それらを散布する手間もない。かかるのは、機械の油代と人件費だけ、今は耕耘の回数やそれぞれの作業をいかに軽くするかを考えてます。これをすることで、環境に優しくお金はかからない、やっている人間が楽になる農業なんです。それが、持続可能な農業じゃないんですかね」
 自然栽培は人間が楽をするための農業=持続可能な農業になること。そのために、まずは自分でなんでもやってみること。そこで得た知恵や技術は惜しみなく分け合うこと。参加者たちには、村田が「どんな農家になりたいか」というメッセージまでもしっかりと手渡されたのではないだろうか。

1泊2日の研修を通じ、何を気付き、何を学んだのか。
参加者たちの生の声を届けるコラム

  • チェーン除草は去年村田さんから聞いて実践していますが、入るタイミングを間違って失敗しているので、その辺の見極め方を詳しく聞けて良かったです。それと、村田さんの人となりに魅かれてこの研修をお願いしました。すごく突っ張っていて、カッコイイ。ああはなれないけど、尊敬です。

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  • 自然農というやり方で、野菜以外に田んぼも2反やっています。以前に住んでいた岡山では野菜と田んぼも不耕起栽培でできていたんですが、大分では不耕起栽培では水はけが良すぎて出来なくなったので、今日は色々と参考になるお話が聞けて参加して良かったです。

  • 去年からお米作りを始めたので、何でも情報があれば欲しいなと思って参加しました。除草についての話はすごく詳しくて勉強になりました。チェーン除草については、自分も手作りで試作機を作って、自分の田んぼでも実用実験をしてみようと思いました。

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  • 就農3年目でこれまでは合鴨農法でお米を育ててきましたが、労力が非常にかかる農法なんです。今回、村田さんの「なるべく楽をする」農業って、私自身も具体的なノウハウを教われて良かったですが、この農業が広まれば新規就農者も増えるんじゃないでしょうか。

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自然栽培のお米って全国の流通量の0.001パーセント以下なんです。僕自身アトピーがひどくて食べるものによって体調が変わっていったんで、そういう人たちにこそ食べてもらいたい。それは付加価値をつけて高く富裕層に販売するために食味日本一を取ることではなく、必要としている人に届けたい。だからオンリーワンじゃなくて良いし、栽培方法もオープンにしてみんなで高めあいたい。こういった勉強会で僕が教わることも多いんですよ。

photo/Nami Suzuki text/Takashi Ogura

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